読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

芦辺拓「グラン・ギニョール城」

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 古き良き時代のミステリが雷鳴とともに山頂の城館によみがえった。

 いわくありげな登場人物。からくり人形、密室殺人、黄金時代そのままの道具立てが遊び心満点で、ついついニンマリしてしまう。

 だが、やがて本の世界と現実がリンクするという興醒めな演出とともに物語はヘロヘロと糸とんぼのように終息する。

 おしいっすね。これなら最初の設定のままストレートに書いて欲しかったっすね。そのまま古き良き時代のミステリ世界を推しとおして欲しかったっすね。

 演出上等、道具立て上等、雰囲気上等でノリノリでやってきたのに、リンクしちゃいかんでしょ。作中作というプロットは嫌いじゃないが、この作品ではその手法はいらない。森江春策もいらない。探偵役はグラン・ギニョール城に招かれたナイジェルソープだけでよかったのだ。

 しかし、楽しい時を過ごしたのも事実。トリックそのものはいたって薄味だったが、それを上回る質の高い舞台設定だった。

 ほんとうに惜しい。ワクワクしたんだけどなぁ。