師の妹が降り立つところから物語は始まる。そこは、のちにニューヨークとして世界でも有数の大都市と
なる場所。そんな黎明期のアメリカの混乱した時代を見事に活写し、痛快無比の人間模様を描ききった本
書は8代にわたる世代の医術の開拓に焦点があてられた、まさにページを繰るのももどかしい本だった。
構図的には『復讐』の物語である。最初から終わりまで、『復讐』が語られ複雑な思いで一喜一憂し
たが、不思議なことにカタストロフィはおとずれない。
どの『復讐』にしても勝者と敗者が明確にされないのだ。本来なら、そこで不満を感じるところなのだ
が、作者の巧みな舵さばきでもって読者に不満を与えず物語は進行していく。
この作者はやさしいのだろう。描かれるシーンには酸鼻な場面が多々あるし、性愛描写にしてもダイレク
トで臆するところがないのだが、主要な登場人物の関係をみてると、この作者は非情な扱いをしていな
い。作者自身の人柄が推察されて、とても興味深かった。医療の黎明期のまさにじれったい進捗状況は読
んでいて歯がゆいほどで、例えば、血液型の分類が確立されてないために、輸血の際に拒否反応を起こし
て死亡する患者がいたり麻酔なしで外科手術したりと、肌寒い思いを味わった。また、この時代はこんな
ことしてたのかと感心もした。
上下二段組で600ページを越す分量なので読む前からうんざりしてしまいそうだが、臆せず手にとって
みて欲しい。ほんとうに読み出したらやめられないおもしろさなのだ。
いやあ、それにしてもおもしろかったなあ。