読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ジョン・マリー「熱帯産の蝶に関する二、三の覚え書き」

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確かに深い余韻が残る短編集だった。

他の短編の名手と比較するってこと自体、意味のないことかもしれないが、書評でも引き合いに出され

てたので、一応吟味しながら読んでみた。

国境なき医師団で働いていたというキャリアからして、我々とは違う現実に生きてきた彼の作風は、あ

まりにも厳しい真実を描いていて充分ショッキングだった。紛争地帯での殺戮や混乱。発展途上国での

目を覆うような惨状。中には、人生を真摯に見つめなおすオフビートな短編や、登山での極限状態を描

いた幻想的な短編もあった。

でも、すべてを通して受けた印象は、余裕の欠如だった。うまくいえないけどこの人には含みがない。

行間がない。短編としては完成度も高く、深く考えさせられるものばかりなのだが、突っ走ってしまう

がために、まわりの景色が楽しめないのである。ほんと厳密にいうと、こういうことは他の作家と比べ

られるものじゃないのだが、ステルンにしろ、マクラウドにしろ、ラヒリにしろ、ドーアにしろ、余裕

があるのだ。時にその余裕はユーモアとして現れたり、実感しない時間の流れとして描かれたり、その

変容は様々だがなんらかの形で感じることができるものなのだ。

この人は、次作に期待したい。ほんと素晴らしい短編ばかりだったから、あと一押しって感じなのだ。

こうなってくると、もう個人の好みってことになってくるのだが、ぼくはそう感じた次第である。