確かに深い余韻が残る短編集だった。
他の短編の名手と比較するってこと自体、意味のないことかもしれないが、書評でも引き合いに出されてたので、一応吟味しながら読んでみた。
国境なき医師団で働いていたというキャリアからして、我々とは違う現実に生きてきた彼の作風は、あまりにも厳しい真実を描いていて充分ショッキングだった。紛争地帯での殺戮や混乱。発展途上国での目を覆うような惨状。中には、人生を真摯に見つめなおすオフビートな短編や、登山での極限状態を描いた幻想的な短編もあった。
でも、すべてを通して受けた印象は、余裕の欠如だった。うまくいえないけどこの人には含みがない。
行間がない。短編としては完成度も高く、深く考えさせられるものばかりなのだが、突っ走ってしまうがために、まわりの景色が楽しめないのである。ほんと厳密にいうと、こういうことは他の作家と比べられるものじゃないのだが、ステルンにしろ、マクラウドにしろ、ラヒリにしろ、ドーアにしろ、余裕があるのだ。時にその余裕はユーモアとして現れたり、実感しない時間の流れとして描かれたり、その変容は様々だがなんらかの形で感じることができるものなのだ。
この人は、次作に期待したい。ほんと素晴らしい短編ばかりだったから、あと一押しって感じなのだ。
こうなってくると、もう個人の好みってことになってくるのだが、ぼくはそう感じた次第である。