驚いたのが、作者の年齢である。
ぼくより年下なのだ。う~ん、たいしたもんだ。若い作家が戦争についてこれだけの作品を書き上げたことにまず驚いてしまう。
終戦間近のフィリピン戦線、灼熱の中行軍を続ける日本軍。彼らの敵は灼熱でも、連合軍でも、病でもなかった。彼らの真の敵は飢餓だったのである。
本書は、戦争によって極限状態におかれた人間の行動を描いて戦慄を呼び起こす。
人間としての尊厳、倫理や道徳といった最低限のルールがあり、人はそれを本能的に尊重するように生まれてきているものだ。禁忌を犯すことに対する恐れは誰の心にでもある。
しかし、その禁忌を犯させてしまうほどの状況が現出する恐怖よ。
戦争の罪は広範囲で、その影響は計り知れない。戦争はあらゆるところに入りこみ、その忌まわしい毒牙によって関わったすべての人に一生癒えぬ傷を残してゆく。
ただ生きるためだけに、生きたいがためだけに、どうしてこれほどの選択をせまられなければいけないのか?いったい何のために生きるのか?そこまでして生きるのが正しいことなのか?
本書を読んでる間中、堂々巡りのような問いかけが始終頭にあった。
自分ならどうする?もしこの状況におかれたら、ぼくならどうする?
食うのか?やっぱり生きるために食うのだろうか?
平穏な毎日では、決して表出することない問いかけが頭をかけ巡るのである。
極限状態の人間心理と尊厳を保つ最低限のルールを天秤にかけて、物語は淡々と語られてゆく。
淡々と、静々と、ことさら煽りたてることもなく堅実に歩調を乱さず。
この現実感をどうか味わって欲しい。フィクションではなく、リアルに感じて欲しい。かつて、誰かが経験したであろうこの地獄をどうか体験してみてほしい。
そうすれば、世界の見方が変わるかもしれないから。