読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

デイヴィッド ソズノウスキ 「大吸血時代」

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 こういうヴァンパイア物は、いまだ出会ったことがなかった。エポックメーキングだ。本書の主人公はヴァンパイア人生にも翳りがでてきた鬱気味の中年男マーティ。そんな彼が自殺しようかと夜のドライブしてるところへ人間の女の子イスズが現れる。久しぶりの生き血だ。いまは、全人類がヴァンパイアになってしまっているから、生粋の人間なんてセレブ用に飼われている人間牧場にしかいないのだ。

 とりあえず彼は女の子を保護し、家に連れて帰って生き血をすする楽しみにとっておくことにした。

 だが、彼の思惑は外れていく。そう、彼は女の子にメロメロになってしまったのである。そこから、このヴァンパイアの父親と人間の娘の笑いと苦難に満ちた日々が始まることになる。

 ヴァンパイアの世界で人間の子を育てるということは、一大事業なのだ。まずライフサイクルが違う。食べ物がない。トイレがない。風邪を引いても薬がない。だって、ヴァンパイアには、そんなものみんな必要ないのだ。そういう環境で、どうやって人間の子を育てていくのか?

 まあ、読んでみて欲しい。この愛すべきヴァンパイアのマーティは次々と持ち上がるこれらの難関をものの見事にクリアしていくのだ。それもこれも全部愛娘のイスズのためなのだ。

 彼の父親ぶりは、傍で見ててもほんとに微笑ましい。全身全霊で娘を愛し、守ろうとするのである。

 う~ん、なんてポップで愛しい話なんだろう。

 ところどころ残酷な場面やエッチな場面が出てくるから、本書はYAではないんだろうなと思う。いったいこの父娘がどうなっていくのかドキドキしながら読みすすめていったが、ラストは大満足の大団円だった。まったくこの作者ウマイのである。ちゃんとツボをおさえている。

 というわけで異色の吸血鬼物でもあり、立派な子育て本でもある本書は、なかなかのメッケもんなのでありました。