とにかく快哉を叫ばずにはいられない作品だ。
ファンタジーと現実が見事に融合して、素晴らしい世界を構築している。
一冊といえるだろう。
しかし、本書は読みにくさでもなかなかのものである。一貫した時系列で物事がすすめられるわけでは
ないので、章が変わるごとに頭の中で整理が必要になる。でも、これはほんのささいなことである。
アーヴィングは自由自在に時と場所を飛びかって、尚且つ破綻なく話を進めていく手腕に優れていたが
、本書ではそれが少しひっかかりとなっている。だが、連作としてまとめられているのでその部分が目
立ったのかもしれない。
とりもなおさず、本書は傑作である。カチアートを追跡する一行の喜劇と、ベトナム戦争を生の声で伝
えた悲劇がたくみにブレンドされた『おもしろかなしずむ』の世界だった。
ラストには、ちゃんとオチがついてる。これを肯定的にとらえるか否定的にとらえるかは人それぞれだ
ろうが、物語を丹念に追ってきた読者は肯定的に受けとることだろう。ぼくもそうだった。
いまでは手に入りにくいかもしれないが、どうか読んでみて欲しい。何かを与えてくれることだけは確
かである。