全体的に本格テイスト満開なのだが、どうもしっくりこない。
そんな中でも印象に残ったものを上げれば「曜変天目の夜」と「待合室の冒険」くらいか。
惜しいなと思った作品は多い。「給水塔」はブランドの「ジェミニ―・クリケット事件」にも似た白熱
した推理のかけ引きが楽しめるのだが、ラストが不満。
「海にゐるのは人魚ではない」も「九マイルは遠すぎる」の向こうをはった意欲を感じたが弱い。「待
合室の冒険」で「九マイル~」が引き合いに出されていたのだが、この「海にゐたのは~」の方があの
テイストに近いと思った。
「ニューメキシコの月」はミッシングリンク物だが、説得力に欠ける。途中まではゾクゾクしたんだけ
どなあ。「往復書簡」もそういった点では途中までかなりエキサイティングだった。でも、これの解明
はこじつけもいいところだ。「魔術師」も長編用の構想を短編用に縮めたそうだが、試みはおもしろい
のに散漫な印象だった。
期待が高すぎたのかもしれない。本格物として読めば、やはり見劣りする。そういう目で見なければ本
書はなかなかおもしろい短編集だったと思う。