これが、実際にあったことだというのが信じられない。
目にあまるものがあった。
悲惨というか、壮絶というか、なんともやりきれない哀しい話ではないか。
江戸末期、水戸藩の中で内戦があった。尊皇攘夷を唱える過激派が筑波山にて挙兵したのだ。しかし、内戦には敗れ賊軍の汚名をきせられ幕府から追討令が出されることになる。
水戸藩の脱藩者を中心にした天狗党は、京都にいる徳川慶喜の力を借りて朝廷を中心に攘夷を決行しよう、そして逆賊の汚名を晴らそうと一路京への絶望的な行軍を決行した。
中山道に沿って、下野(栃木)、上野(群馬)、信濃(長野)、美濃(岐阜)と西へ西へと辿っていく天狗党の前に、桜田門外の変で水戸藩に激しい敵意を抱く彦根の井伊藩が中心となった大隊がたちはだかる。勝ち目のない一行は、道を北にとり越前(新潟)への雪中の決死行を余儀なくされる。
まさしく地獄行。執拗な追手の追撃。続出する怪我人や病人。越前での厳寒での行軍。これは、史実だからネタバレにはならないだろう。天狗党は最後には降伏し三百人以上が斬首されるという日本史上例のない大量の処刑が行われた。
ここまでくると、憤りで胸がつまってしまう。
善悪の判断というのは、誰が下すのか?何が正解で、何が間違っているのか?
そんな哲学的な大きな問題に頭を悩ましてしまう。
報復という言葉のもつ重みを痛いほど噛みしめてしまう。
本書は全編一人称の語りで描かれている。辛うじて斬首を免れた天狗党大将武田耕雲斎の第四子の回想という形をとっているのだ。当時十五歳だった少年の目を通して描かれることで当事者にしかわからない臨場感がそら恐ろしいほどビシビシ伝わってくる。
恐るべし風太郎。