「今夜は、音をたてずに人を殺す八つの方法を教授する」
このあまりにも有名な書き出しではじまる本書は、ベトナム戦争を下敷きにした傑作ハードSFである。
読む前から『これ絶対読むことないだろうな』って感じる本が誰でもあると思う。
ぼくも、本書がそうだった。戦争物って受けつけないし、ましてハードSFなんて理数系じゃないぼくの頭では、とうてい処理できる演算能力を越えているはずだ。
と、思っていた。
だが、そういう本に限って天啓のように読みたくなる指令がどこかから飛来してくる。いままで、目も向けなかった本が妙に気になりだすのだ。そういう風にしてキングの「シャイニング」やホーガンの「星を継ぐもの」などを読んできた。
そして、なんでいままで読まなかったんだろうと歯噛みした。毛嫌いした本に限って読んでみたら180度認識が変わってしまうのだ。
本書も、その例にもれない。天啓に導かれて読んでみたら、たちまち引き込まれてしまったのだ。ここで描かれる戦争は、星間戦争であるがゆえに数々の物理学的現象にとらわれていく。本書の登場人物たちは皆アインシュタインの掌で踊らされている。地球時間で換算すれば、主人公であるマンデラは千百四十三年間もこの戦争に従軍していることになるのだ。
そこで行われる戦いは、泥濘の一途をたどり何のために戦っているのか誰も明確な答えを出せなくなっている。
目的を見出せない戦争でもあり、プロパガンダのない一般人にとっては遠い戦争でもあるこの戦いに漂う感覚は虚無感である。ただの殺戮機械として訓練された兵士たちは、敵を一人でも多く殺すことに専念し、命をすり減らしセックスに明け暮れる。
戦場の描写の臨場感には、目を見張るものがある。いつしか息を止めて文字を追っている自分に気づく。
しかし、本書を読了したときなぜか心が満たされている。このタイプの話にはめずらしいハッピーエンドなのだ。
願わくば、マンデラとメアリゲイの二人が幸福な生活を送ってくれますように。
とにかく、本書はやはり読んでよかったと思えた本だった。
天啓に感謝である。