天藤 真の作品はボチボチ集めてはいるのだが、読んだのはこれ一作きりである。
映画化もされたので、本を読んでなくても内容を知ってる人も多いと思うが、本書は読み終わって思わ
ず笑みがこぼれるハッピーエンドの誘拐物である。
誘拐の標的にされるのは紀州随一の大富豪、柳川家の当主とし子刀自。犯行を企てるのは、刑務所の雑
居房で知り合った三人の男たち。
とにかく話の展開もさることながら、この大富豪のおばあちゃんの存在感が圧倒的である。
なんせ自分の身代金が5千万だと知った途端、自分の価値はそんなに低くないと怒り出しこう言い放つ
「端たは面倒やから、きりよく百億や。それより下で取引きされたら、末代までの恥さらしや。ええな
。百億やで。ビタ一文負からんで」
なんとも痛快なおばあちゃんだ。ここまできたら、もう後戻りはできない。本書を読む誰もがこのおば
あちゃんの虜になっていることだろう。
本書には悪人が登場しない。誰も死なない。
それでいて、とびきりのサスペンスに満ちておりミステリとしての完成度も最高級ランク。
なんて素晴らしい作品なんだろう。
誰にでもオススメできる、とびきりおもしろいミステリーといえば、ぼくは本書を第一にあげる。
それほど完成度も高く、ユーモアにあふれ、読後感のすばらしい本なのだ。
未読の方は是非お読みください。