なんでもいいから、情熱をもてる対象があるというのは素晴らしいことだ。主人公のミチルは、演劇バカである。
未知の分野を詳しく描かれると、嫌気がさすか興味深く読むかに分かれるが、本書は後者だった。ミチルの情熱がストレートに伝わってきた。少し熱くなった。
それでいて、ミチルはガラスで出来た人形だ。あらゆる干渉を拒否する。彼女がつくる壁は偉大で険しい。でも、稀代の女ったらしでもある。彼女が彼女と紡ぐ性愛は、女性同士であるがゆえに飽くことなく、貪欲で生々しい。
こわれやすい繊細さを持ちながらも、時に大胆で破壊的な行動にでるミチルは退廃の美学を体現しているようだ。
少しうらやましく思った。軽く読めてしまったが、心のどこかにミチルの面影を残してしまう。毒気にやられたのかもしれない。こんなおっさんの年になって、二十二、三の小娘に横っつら殴りとばされるとは、情けない。
うまく伝えられないが、ぼくにとって中山可穂は特別な作家になりそうな気がする。