読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

松本清張「火神被殺」

 

火神被殺 (文春文庫 ま 1-50)

 五編収録。表題作は古代史と現代の事件が絡まる意欲作で、「出雲風土記」を筆頭に「古事記」「日本書紀」などの史書の解釈や隠された意味を紐解くおもしろさと、現代のバラバラ殺人の謎がリンクするところがミソ。でもね、やっぱりここには無理があって、ちょっと都合いいんじゃないですかってとこもある。事件の謎を解く当事者たちの繋がりがあまりにも緊密だったり、史書の内容のピックアップが露骨すぎたり。それでも、そういう不満を差っ引いてもおもしろいんだな、これが。これはまえから感じていたんだけど、日本のこういう神話って汚いところもちゃんと描かれたりして、ほんと世界の中でも独特だと思う。イザナギイザナミを黄泉の国に迎えにいく話しかり、ヒルコの話しかり。伏せてもよさげな話がちゃんと残っているのが、なんか解せないんだよね。  

 「奇妙な被告」は、法廷物。単純な事件ゆえ、犯人も犯行も一目瞭然だからすぐに決着がつく事件だと思われた。主人公である国選弁護人も乗り気でなかったが、仕方なく担当することになり、当初スラスラと犯行を自供していた被告が、それは警察の強制と甘言により誘導された嘘の自供だと言い出したのである。いったい被告は、黒なのか白なのかというスリリングな展開の話なのだが、こういう展開は話の構造が単純ゆえ、真実への証拠固めの反転が如何に鮮やかでリアリティのあるものかが重要になってくる。その点、やはり清張さん抜かりありません。やってくれます。

 「葡萄唐草文様の刺繍」は、これまた新たなパターンに驚く。ここで描かれる中心人物はとにかく慌てるのである。世間に顔向けできない事をしているゆえに事がバレないようにあたふたするのである。なぜなら人が一人殺されているから、自分の過ちが公けになってしまう懼れがあるのだ。そこでネックになってくるのがタイトルの葡萄唐草模様の刺繍のテーブルクロス。いやあ、ハラハラさせます清張さん。

 「神の里事件」は、表題作と同じく古代史と現代の殺人が描かれる。しかし、これは少しまどろっこしい。播磨国風土記を題材としているが、ぼく個人の見解として馴染みがないぶん割りを食ってしまって、あまり入り込めなかった。新興宗教自体もあまり好みでないしね。しかし、真相はちゃんとトリックが作られていてミステリとしては見事に着地しております。

 「恩誼の紐」はなかなかインパクトのある話で、僕は以前に「骨壺のある風景」や「父系の指」などを読んでいるので、清張の幼い頃の出来事は記憶に残るほど馴染んでいたが、まさかそれがこんな話になるとは思っていなかったので、驚いた。凄烈な印象だ。怖いくらいだった。端々での描写に戦慄に近い衝撃を受けた。心に残る作品だ。  

 というわけで、まだまだある清張短編、どんどん読んでいきますよ。