一ノ瀬駅の次は餓鬼谷駅だから、下りなければいけない。層状過客列車は下りるときに各層を通り抜けなければいけないので、なかなか骨がおれる。しかも荷物が大きいから停車時間の3分で下りれるかどうか心もとない。
駅につくまで可視時間で10分弱、いまいる過客車両は第3、すぐ立てば間に合う。ぼくはジャイロリュックを背負いなおし第3経常層を出た。
下の第2垂加層は重力が逆に設定されているのでなかなか大変だ。前世紀から地球に移住してきたダボジャ達は-3Gでないと肋間神経痛になってしまうそうで、ほんといい迷惑だ。
ただいま可視時間4分過ぎ、あと1層通り抜けられるか?十分余裕があると思ったのに、クソッ間に合わないぞ。
ダボジャがぶつかってくる。すいませんすいませんとやりすごしなんとか2層出口へ到達。次の第1狭窄チューブ層は最大の難関だ。窮屈この上ない。ジャイロリュックの突端が引っかかってなかなか前に進めない。ブラジリア・テンペストの狭窄視野に合わせて組み込まれている層だが、人間にはきついよ、まったく。
ようやく昇降ペニンシュラだ。可視時間残り30秒。丁度じゃないの。良かったー。
餓鬼谷駅に下り立つと宮簀媛が出迎えてくれた。相変わらず可愛い。連絡通路に上がるため階段をのぼっていると、後ろからついてくる。長い髪の毛が藍がかった黒で、光の加減で色が変わるのが美しい。でも、二日風呂に入っていないそうで、少し体臭が匂う。
「疲れた?」と宮簀媛。
「いや、下車の時以外は快適だったし、そうでもない」
「そう。じゃあ良かった。上のトイレに行かなきゃ」
「わかった。一緒に入ろう」
手をとって、二人でトイレの茶色い扉を開ける。トイレの中は外より白色が強く、すべてが清潔に見える。そこで、ぼくたちは少し待った。ワタツミトヨタマヒコがやってくるまで少し待たねば。そうこうしているうちに宮簀媛の着物の裾から血が流れてきた。
「わたしの着物の裾に月がでたのは、あなたを待ち焦がれていたからよ」
宮簀媛が言った。