読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ラフカディオ・ハーン「骨董──さまざまの蜘蛛の巣のかかった日本の奇事珍談」

骨董: さまざまの蜘蛛の巣のかかった日本の奇事珍談 (岩波文庫)

 

  ラフカディオ・ハーンこと小泉八雲は怪談・奇談の蒐集及び紹介をしている人なんだと勝手に思い込んでいた。耳なし芳一やむじなの話など子どもの頃から慣れ親しんできたので、いまさら読むこともないかと思っていたけど、本書を読んで認識をあらためた。

 日本人のぼくからすれば、ろくろ首も雪女も決して新奇なものではなく、自然に身の内に入り込んでいたくらいの馴染み深さだが、これが外国の人からすれば文化や風習の違いと同じく馴染みがないからまったく新しいものとして受け入れられたんだと思う。ハーンは、こういう日本の珍談・奇談・怪談に接してぼくが以前「ラテンアメリカ五人集」に収録されているアストゥリアスの「グアテマラ伝説集」を読んだ時のように頭を殴られたかのような衝撃を受けたのではないだろうか。そういえばエイモス・チュツオーラの「やし酒飲み」もなかなかの衝撃だった。

 ハーンは、日本の伝承や説話を知り、そういった衝撃を受けてこれは紹介せねばなるまいと多くの本を書くに至ったのではないだろうか。そんな彼のまた違った顔を見せてくれるのが本書の後半部分。

 こちらではとりとめない色々なことについて思うままに書かれている。それはある薄幸の女性の日記についてであったり、虫についてのことであったり(蛍の話は勉強になった)、彼の死生観の話であったり、猫についての話であったり、ほんとうにとりとめがない。だがそれゆえに放射線状に伸びたあらゆる知覚が感じられるような気がして、彼の人間として懐の深い人となりが感じられて興味深かった。
 この人、頭の中がグルグルしていたんだね。なんだ、ぼくと同じじゃん!