小粒な短編が八編収録。既読は表題作のみ。「松本清張傑作短篇コレクション〈中〉」で読みました。前回も言及していなかったが、これは心理小説ともいうべきもので犯罪は描かれていない。でも「おにいーさまあ」という声がいつまでも耳に残る良品。ラインナップは以下のとおり。
「遠くからの声」
「殺意」
「なぜ「星図」が開いていたか」
「反射」
「尊厳」
「市長死す」
「支払い過ぎた縁談」
「氷雨」
なぜこの短編集を読みたかったかというとほとんど読んでいない作品ばかりというのもあったのだが、「なぜ「星図」が開いていたか」が収録されていたからなのだ。このタイトルはたいそう魅力的で、クリスティにも「なぜ、エヴァンスに頼まなかったのか?」というのがあるが(クリスティ好きじゃないので読んでいませんが)早川のこのタイトルは秀逸なのに創元は「謎のエヴァンス」なんてなんの面白味もないタイトルがつけられていて驚いたものだ。この謎の中心をそのままタイトルにもってくるのは、読み手の好奇心をかなり刺激するものでストレートに命題を突きつけられる単純さと、その命題の不可解さが渾然となるからなに?なに?なに?となる。
だから清張のこのタイトルも、今みたいに清張マニアになる以前から気になっていた。で、内容なのだが、ある男が自宅で心臓発作で亡くなった。亡くなっている部屋の机の上に百科事典の星図のページが開かれておいてあった。なんでもないシチュエーションだ。不可解なところは何もない。しかし清張はそのシチュエーションに強固な肉付けをおこない、無上のブロバビリティミステリに仕上げてゆくのである。正直、そんなことで心臓発作になる?とかそういう仕掛けでそこが開く?とか思うけど、こういう道具立てで一篇書いちゃうところに感心してしまう。
「殺意」は、会社の一室で突然死した男の事件を描く。いままで秘書がいたのに、十分くらい席を外した間に毒殺されたようなのだ。ここではそれがどうやって行われたのか?また、容疑者として浮上した者の動機はなんだったのか?が描かれる。こういう不条理的というか魔がさした的な人間心理を描かせると、抜群に上手いのね清張さん。
「反射」は、倒叙物。犯罪が描かれ、どうやってそれが暴かれるかという話。小細工せずに、すべてをありのままに残して、どう考えても犯人はその男なのに、すべてが状況証拠だから逮捕には至らないはずだと目的である盗んだ金を誰もが思いつかない方法で処理した男の末路が描かれる。
「尊厳」では、先に読んだ「黒地の絵」で描かれた朝鮮戦争で亡くなった米兵の遺体処理の話が出てきて驚いた。ぼくの中ではすごくタイムリー。
「市長死す」は、素人探偵物。清張さん、ホント上手い。グイグイ読ませますね。何故市長が突然予定を変更したのか?という謎の答えははやくからわかっていたが、真犯人が誰かという答えには驚きました。
「支払い過ぎた縁談」は、まさしくタイトルそのままの作品。なんとも巧妙な…これ以上は書けません。悪いことなのに痛快なのね。
「氷雨」はミステリでもなんでもありません。でも読ませます。水商売の女性のあっちとこっちの駆け引きですね。何に重きを置くかという点で、女性の心理ほど不可解なものはないなあと思うのであります。
というわけで、まだまだいきますよ。
