既読がニ作あるけども、「黒地の絵」が収録されているので読んだ。収録作は以下のとおり。
「啾々吟」
「カルネアデスの船板」
「ある小官僚の抹殺」
「黒地の絵」
「空白の意匠」
「大臣の恋」
「駅路」
巻頭の「啾々吟」は、時代物。幕末から明治にかけての話である。ここに登場する石内嘉門はすこぶるよく出来た秀才だったが生まれた家が身分の低い家だったことから同日に生まれた藩主の息子と、家老の息子の二人とは違う人生を歩むことになる。いや、生まれが軽輩の家だったからという理由だけではなく、彼は人に好かれない、理由もなく他人に見放されるという、宿命的な性格を持っていたのである。
まだまだ序の口ですよ。皆に受け入れられない男がどうなったか?主人公の家老の息子の一人語りで綴られるこの物語は、ことさら驚きの展開になるわけでもなく、そうなるだろうなという結末を迎えるのだが、それがかなり苦くいつまでも喉の奥にはりついている。清張さんキツいよね。
「カルネアデスの船板」は既読。思想と世相と地位が混然となってある男の人生をつまずかせる。優位が不利に暗転する恐怖がジワジワ味わえます。
「ある小官僚の抹殺」は、実際の事件を元に清張なりの推理をえがく作品。こういったスケープゴートとして抹殺される要職の人の事件は後をたたない。死人に口なしだ。抹殺と書いたが、表向きは本人の意志で自ら命を絶つということになる。そこへ切り込むのが我らが清張先生。おそらくこうだったのではないか?という筋立てが、そうだったとしか思えない恐ろしさよ。
で「黒地の絵」だ。これも実際にあった事件なのだそうだが、これは事件自体が抹殺されていたそうな。戦争が招いた悲劇といってしまえばそれまでなのだが、ここに描かれる事件は表面だけみれば人種差別にもつながりかねない内容で、実際酷いことが行われている。しかしその背景に目を向ければ割り切れない感情の波に押し流されそうになる。描写があまりにも真に迫っているため、臨場しているような恐怖を感じるが、彼らも怖かったのだ。だからといって許されるわけではないけどね。
「空白の意匠」も既読。これは絵に描いたような悪夢であり、それがどこにでも転がっていそうなことだから身に迫る恐怖となる。上下関係と社内の軋轢。どこにでもあるでしょ?
「大臣の恋」はストーリーラインはとても微笑ましく甘酸っぱいものなのだが、突きつけられる現実がなんとも容赦ない。ただの甘い思い出なのに、それがどういう結末をむかえるのか読者はある程度予想をつけている。でも、ここは清張さんやさしく見守ってと願う気持ちがまた苦くて喉にはりついてしまうのである。
「駅路」は失踪人のお話。失踪人の捜索って本当にこうやって刑事が足で歩いて捜査するの?そういった疑問はよしとして、これは短い作品ながら真相を追う手際がおもしろく、グイグイ読ませます。いったいどうして銀行を定年退職した男が、金も幸せな家庭もある身で失踪するのか?真相は二回くらい転がります。おもろいです。
というわけで、清張さんいくら読んでも飽きません。ほんとおもろいわ。
