読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

「文豪ナビ 松本清張」

文豪ナビ 松本清張 (新潮文庫)

  でもね、仕方ないの。久しぶりに作家にハマっちゃったの。皆川博子以来なの、一人の作家をこれだけ追いかけるのって。作品の魅力もさることながら、清張本人の人となりも気になりすぎて、こういった特集本まで網羅したくなるくらいだから、これはかなり重症なのであります。 
 で、知れば知るほど清張の魅力にとらわれていくのがわかる。あの不敵ともいえる愛想ない面構えさえお茶目に見えてくるし、分厚い下唇も可愛いなと思えてくるくらいなのだ。

本書はナビというくらいだから、清張初心者にとってガイドの役目を担っているのだが、好きなことに対してはスポンジボブになってしまうぼくとしては、すでに知っていることばかりだったけど、それでも楽しめた。

 デビューが四十を過ぎてからだというのはまだしも、それから亡くなるまでの四十年ちょっとの間にこなした仕事量の膨大さにあらためて脅威にも似た感情をもった。すごくない?それもジャンルにとらわれず、歴史物、推理物、ドキュメント、古代史、人物伝などなど多岐にわたるんだから恐れ入ります。

 ぼくは、ここで清張作品にハマったことを心底喜んでいる。一人の作家がこれだけ気になるってそうそうないからね。山田風太郎皆川博子に続いて三人目だ。だから最近は翻訳物まったく読めてないもんね。

 ぼく的にどうしてこんなに好きになっちゃったのか考えてみたのだが、第一にストーリーテリングだね。展開が巧みでプロットが常に新鮮。けっこう強引なところもあるのにそれを瑕疵と感じさせない魔法がかかっているみたい。次に思うのが、身に迫る怖さだ。小市民を代表する市井の人を描くことで、それが絵空事に感じられない切迫となっている。それに付随して、家庭をもって家族を抱える人にとっての深くて黒い陥穽が大きく口を開けて、それを淵から覗き込んでいるようなゾワゾワが終始つきまとってくる。また虐げられた者の怒りや反骨が描かれることも多く、それが熱量となって全身を覆いつくす。常に弱い者の側を意識していることが伝わってくる。そういった感情をゆさぶる要素に加えて、該博な知識に支えられた的確な描写や言葉のチョイスに舌を巻いてしまう。

 映像化された作品にかなり恵まれているのも大きなプラスポイントだ。昔観た「砂の器」や「鬼畜」を今一度観たいものだ。もし映画館でリバイバルされたら必ず観にいきます。なんないか。

 とにかく、この清張愛はまだしばらく続きますよ。いろんな世界を知りたくて知りたくてたまらないのです。