時代が古いとかそういうことはまったく気にならない。さすが、当代一の流行作家であり、巨匠という名にふさわしい清張だけのことはある。宮部みゆきの責任編集ということで、そのセレクションには彼女なりのこだわりがあるようで、清張短編初心者にはたいへんありがたい本なのであります。
芥川賞をとった『或る「小倉日記」伝』は、清張が朗読して奥さんに聞かせた時に、奥さんがかわいそうでかわいそうで仕方なかったと言っていたくらい本当にかわいそうな作品で、ぼくは映画「砂の器」のあの巡礼親子が重なって仕方なかった。橋本忍もここらへんの印象からあの映画の演出をおもいついたのでは?なんてね。
はじまりは芥川賞でも、そこから流行作家としての快進撃がはじまる。続く収録作ではやはり話の組立方が素晴らしく、どれを読んでも吸引力が素晴らしい。ありきたりな展開なのかもしれないが、そこへ辿りつく行程がかなり読ませる『地方紙を買う女』なんて何度も映像化されているようだが、展開がドラマティックでついつい引き込まれてしまう。まさか、作家が探偵役になるとはね。しかも「野盗伝奇」って清張自身の作品じゃん。思わずポチっちゃった。
「理外の理」という作品は、静かな導入から鬼気迫るラストへと流れる傑作で、江戸時代の巷説がいくつか出てくるかと思いきや、それがああなってこうなっちゃうんだから素晴らしい。『縊鬼』なんてのが効果的に使われていてまさしくゾゾゾなのである。
「削除の復元」は、ここでも鴎外の小倉時代が出てきて驚く。しかも、日記の訂正箇所からこんな奥深い物語が生まれるとは!いったい、清張先生どういう思考過程を経て話を作っているのかと思ってしまう。
その他の作品も短篇ながら読み応え充分、それぞれの世界観がちゃんと確立されているので、安心かつ貪るように読めてしまうのであります。
昭和史発掘なんて壮大な試みは、かつての大事件を再構築して躍動感あふれる読み物となっている。『二・二六事件』なんて、陸軍将校のクーデターっていう表面的な事実を知っているだけで、実際当事者たちが、どう動いて、どう感じていたのかなんてこと知りもしなかったしね。
で、まだこのコレクション上巻だから、あと二冊あるんだよね。読むのが楽しみ。でも次はよりエンターテイメント寄りの角川ホラー文庫で刊行された「潜在光景」に寄り道いたします。
