以前、頭木弘樹編「トラウマ文学館」 で読んだ「はじめての家族旅行」が忘れられないのである。もちろん、少女漫画を読む習慣もないので(といっても、この作者の描く世界は少女漫画の持つ線の細いキラキラの眼の華やかな世界とは全く似ても似つかないものなのだが)この人の存在も、作品の思い出も全くないのだが、一読すれば、まず忘れられない作品なのだ。
副題にもあるとおり(直野祥子トラウマ少女漫画全集)というからには、あの「はじめての家族旅行」の反響が多かったものと思われる。初めて接したぼくみたいな人も、当時リアルタイムで読んで心に残っていた人も、あれを読んで衝撃を受けたのに違いない。それほどにそのインパクトは強烈なのである。
ここで描かれるのは取り返しのつかない恐怖なのだ。
物語の主人公たちは、思い違いの結果として取り返しのつかない恐怖を味わうことになる。読者は、それを我がことのように追体験する。ほんとうに悪夢の総大将だ。ぼくとしては、少女漫画らしくない劇画タッチの絵がさらに良かった。
ちょっとテイストは違うが「おつたさま」も、ストレートな恐怖を描いており、これはこれで幼い頃に読んだとしたら、そりゃあ結構な心的ストレスを与えられ、悪夢にうなされる日々が続くことになっただろうと思われる。障子の部屋で寝れなくなったという読者がいたというのもうなづける。
思い違い。間違った解釈。そういうどこにでもあるだろうヒューマンエラーを軸に描かれる取り返しのつかない恐怖。当時の少女たちは、これらの作品を読んで恐怖をあじわうと共に自分の境遇の幸福を噛み締めていたのだろうと思われる。ぼくも、こういう心がザワつく話に接して、逆に精神を落ち着かせているように感じている。
