このシリーズ、おもしろい。おもしろいんだけど、今回はやはりとてもライトだった。いつもにも増してね。それがちょっと引っかかったけど、おもしろかった。正直エステルのあんな姿は見たくなかったけど、最終的にこの展開はほんと予測不能だった。
あらためてこの作者の『違和感』作りの上手さに舌を巻く。投げかけ、それを読者の記憶に残し、のちに回収する。誰もがやっていることなのだが、この作者はそれがかなり巧みなのだ。違和感というものを提示ではなく記憶の中で処理させるので、読者としてはそこに自然な流れを感じる。これは、その場のシチュエーションや登場人物たちの言動、そして違和感を呼び起こす物なり人なりの配置がそれこそ『違和感』なくできていないといけない。それらのどれかが突出していれば、読者もバカじゃないのでその違和感だけが残ってしまう。はっきりとそこに明滅する矢印が向けられてしまうのだ。
違和感といえば、最近金木犀が咲き始めて、あの芳香がよく鼻につくようになったが、ぼくは子供の頃この香りが大好きだった。なんなら小さい花を摘んで袋に集めて香りを胸いっぱい吸うのを楽しみにしていたくらいだった。しかし、いま五十をとうに過ぎてこの金木犀の香りに少し嫌悪感をおぼえるようになっていることに気づいたのだ。あんなに好きだったのに、いまは安物の柔軟剤みたいで嫌だと思うようになったのである。これは、ぼくの感覚が変化したのか、それとも金木犀の香りが変化してるのかいったいどちらなのだろうとすごい違和感なのである。
閑話休題
『違和感』連想で本書とまったく関係ないことを書いてしまった。しかし考えようによっては、ボタニスト絡みで金木犀なので、いいんじゃないの?
とにかく、いつもよりは軽めだなと、テイリーの精彩も欠いていたなと思ったのだが、やはり本書はおもしろい。ラストの畳みかけもひとひねりあって良かったし、ポーの身の上での変化もあって今後も目が離せないし、はやく続きが読みたい。そう思わせてしまう段階で本シリーズは勝ちなのであります。