小松左京の本を読むのは初めてなのです。タイムリーでもあるよね、ここまで酷くないけどコロナを体験した身にとってはね。
有名な作品なのであらためて紹介するまでもないだろうけど、本書は未知のウィルス(ということにしておこう)で世界が破滅してしまう話なのである。研究所から持ち出されたサンプル。それを運ぶ途中で事故にあい、サンプルは地に撒かれてしまう。当初それはインフルエンザだと思われていた。名称も発生源と思われる地の名をとって『チベット風邪』と呼ばれていた。過去に何度もパンデミックが発生しており、1918年のスペイン風邪は全世界で推定一億の人が亡くなった。今回もそういった類いだろうと思われていた。しかし、人がバタバタ死んでゆく。さっきまで命あったものが次の瞬間には死んでいるのである。
そうこうしているうちに世界各国で身近にいる生き物が大量に死んでゆく現象がみられる。河を流れてゆく水鳥たち、街中のそこら中でみられるネズミの死骸。やがて人間も死に絶えてゆく。処理が追いつかずそこら中に転がり腐ってゆく死体、死体、死体。この世の終わりだ。
パンデミックの恐怖。目に見えない敵。圧倒的な力の差によって、人類は死滅する。なすすべないとは、この事だ。神も仏もない。朽ち果ててゆく子どもの骨が悲しい。小松左京は、それをあらゆる角度から描いてゆく。こんなに深刻なダメージを受けて人類は、生き残れるのか?
これが充分現実的な話だから、怖いのである。これが書かれた当時は冷戦時代だったから、それはそれで充分な脅威だっただろう。いまはそれに加えてパンデミック自体の恐怖も生々しいから、読んでいて息苦しいことこの上ない。