読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

真島文吉「右園死児報告」

 

右園死児報告

 右園死児は人にあらず、物にあらず、でも存在するものなのである。本書を開けば、それに関する報告事例がどどーっと羅列される。それは不気味な現象だ。物の名前、人の名前、例えば右園死児という文字を書くだけでも災厄は起こる。いってみればそれはウィルスみたいなもので、感染汚染言い方はいろいろあるが、それが関与すればたちまち災厄にみまわれる。

 その事例の一つ一つがわれわれの概念外、規格外なのである。脚のない蛸、人間を食べる人間、だが食べているのは乾物、他の生物の死骸に死骸を突き刺し合成している猿、身の丈三メートルほどで、目も耳も無い猿、右園死児という名を口にするだけで死ぬ人々。ちなみに、これはウゾノシニコと読みます。これを読んでいるみなさん、声に出して読んでください、なんちゃって。

 この報告が続いてゆくのだが、途中から少し違ったものも混じってくる。録音テープ、書きかけの報告書、ヘリ等から流された放送などなど。報告書以外のものによって世界に動きが出てくる。そして後半、数々の報告書に出てきた人々で結成された部隊が右園死児の根源を倒すために死地に向かうのである。この前半の不気味なホラー部分と後半のアベンジャーズ的な展開への色分けがなかなかおもしろい。

 こちらとしては、こんな放射能汚染みたいな、史上最強のウィルスみたいな未知の存在である右園死児が蔓延した地獄と化した日本がいったいどうなるのかと固唾をのんで見守るしかないのである。

 本書がただの不気味なホラーではない所以である。考察の余地もあり、登場する人物やその人たちの言動、そして不気味な事例すべてが関連しているので、あっちとこっちが繋がり、こういう流れになって実はそういう意味だった的な解釈がとれるようになっている。ぼくはあまり深入りしてないんだけどね。でも、右園死児はまだ蠢いているのである。完全に駆逐されたわけではないのである。大きな概念としての怨霊とでもいうべき最悪の災厄は、まだ生きているのである。