愛される理由はそれぞれだ。なにがきっかけになるかは千差万別、それこそ運命だ。また、幸せを感じるのは能力だ。それが幸せかどうかは、その人が感じるものであってその能力が高い人ほど幸せを感じとる機会が増える。気持ちの持ちようは、その人の性格を固定する。
あなたにとって愛するってどういうことですか?幸せってどういうことですか?
そういった事柄を頭の片隅でずっと考えながら本書を読んでいた。雨の降る音をうるさく感じないように、静かすぎる音が耳に痛いように、そこにあってそこにないものを感じながら本書を読んでいた。ベルリンの描く世界は、そういった手を伸ばしても掴むことのできない何かをずっと探している焦燥とあきらめが同居しているような、不思議と落ち着いた安心に満ちている。自分の境遇とあまりにもかけ離れた世界。手の届かない現実。しかし、それも鏡像だと理解している自分にも安心する。
彼女の作風は、自分の実体験をランダムに選んで切りとるもので、経験が豊富であるからこその滋味にあふれている。それは、幼い頃から何回も引っ越しをして住む土地が変わった事や、3回の結婚と離婚を繰り返しさまざまな職についた経験からあふれだしてきたもので、生粋の読書家だった彼女はそういった事柄をベースにして小説を書かずにおれなかったのだろうと思うのである。それは読んでいて共感として充分感じとれるものだった。
それにしても彼女の小説はワンダーに満ちている。自由に書くという縛られない方法をこれだけあけっぴろげに、且つ斬新に驚きをもって与えてくれる小説はない。実体験をもとに描かれるそれぞれの短編はリアルな骨子にベルリンの鼻薬がふんだんにまぶされ、悲惨な出来事も、素敵な出来事も、おかしな出来事もみな魔法のフィルターがかけられたように輝きだす。ハッとする描写、独創的な比喩、えぐられるような感情、すべてが彼女の匂いを纏って突きつけられてくる。
得られるものは多い。未読の方は是非とも読んでいただきたい。