読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

呉 勝浩「爆弾」

 

爆弾

 話題作だもんね。しかも、ちょっと前に「雛口依子の最低な落下とやけくそキャノンボール」を読んで、こりゃあ凄い書き手だと認識したところだったから、期待するよね。

 無差別爆破テロ。こんなのが本当にあったら、手も足も出ないよね。偶然誰かが爆発物を見つけて、未然に防げたってシナリオならあるだろうけど。でもそれじゃあドラマにはならないから、本作では容疑者が登場する。彼は、しょうもない傷害事件で連行され、取り調べの最中に霊感がはたらいて、秋葉原で事件が起こる気配がすると言い、時刻まで指定する。そして、その通りに爆発が起こる。色めきたつ刑事たちにさらに追いうちをかけるように彼は言う。

 『わたしの霊感じゃあここから三度、次は一時間後に爆発します』

 ひえぇぇぇー!!じゃん?これから、まだ爆発すんの?どこで?というわけで、この容疑者を(でも本人は、無関係だと主張していて、あくまでも霊感によって次の爆破を予告すると主張するのである)取り調べするのだが、こいつは押しても引いてもまったく動じないやつで、挙句の果てには爆破時刻や場所をクイズにするのである。

 警察側は、この食えない容疑者に振り回され、すべてが後手後手になってしまう。いったいこいつは何者なのか?

 おもしろく読んだ。次が気になる展開でもあった。しかし、ところどころにサンデル教授が出す命題のような善悪の可否、自分と他者との価値判断などが出てきて、それは実際こういう事件に直面するとどうしても浮上してくる命題なのだが、それが少し鼻についた。また、この得体のしれないスズキ タゴサクという容疑者がどうして警視庁の頭脳明晰な頭一つ飛び抜けた刑事と互角に、いやそれ以上に渡り合えるのか?そこらへんを納得させるバックグラウンドが描かれていないので、不満が残った。

 でも、まあラスト一行の不穏な終わり方は特筆に値するし、先にも書いたがリーダビリティは抜群なのである。年間ベスト級かと言われれば、そこまででもないかと思うのだが、おもしろかった。読んで損はなしだと思うのである。