読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

櫛木理宇「死刑にいたる病」

 

死刑にいたる病 (ハヤカワ文庫JA)

 久しぶりにサイコパスが登場するミステリ読みました。映画化されたから、観る前に読んどこうと思って。この小説、おもしろいのは連続殺人鬼が誰で、どういった犯行を重ねてとかいう展開じゃないところ。だって、稀代の殺人鬼 榛村大和は、すでに捕まって拘置所に抑留されているんだから。事件はすでに解決している。じゃあ、いったいどう話が転がるの?ってことなんだけど、ここで登場するのが大学生の筧井雅也。田舎町でかつては神童なんていわれてたけど、いまは現実の厳しさをいやというほど思いしった、ちょっと世を拗ねた青年。彼のもとにある日 榛村大和から手紙が届く。そこには、立件されている24件の殺人のうち、最後の1件だけは自分が犯したものじゃないと書かれている。それは冤罪だから君がそれを証明してくれないか?と。

 なんで?いきなり死刑囚から手紙が届くってありえねー。と、思ったあなた。いやいや、それはちゃんと納得のいく、すとんと落ち着く話ですから大丈夫。で、なんやかんやあって、結局筧井くんは調査に乗りだすことになる。いきなり素人がそんな調査なんてできんの?とも思うけど、そこもちゃんとリカバリーされているからご安心を。

 そこから展開する話は、まるで歌舞伎か韓国ドラマかってくらいみんなが絡みあってくるド因縁話になってくるんだけど、これがおもしろい。すべての中心にいるのは殺人鬼 榛村大和だ。彼の造形はほんと巧みで薄ら寒い。ゾッとすること請け合い。きれいに整った美しい顔で、まわりにいる人みんなを魅了して、虜にする。人の心を掌握する術に長け、彼が殺人鬼として捕まった後でさえ、まわりの人々はなにかの間違いじゃないかなんて言い出す始末。

 かつてニーチェが「善悪の彼岸」の中で、怪物と戦う者は、その過程で自分も怪物にならないように気をつけなければならない。深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ。ということを書いていて、ぼくはこれをトマス・ハリスの「レッド・ドラゴン」で知ったのだが、まさに、筧井くん、そのとおりになっちゃうんだよね。ぼくだったら、絶対こうはならないなと思ったけど。

 で、結局、冤罪だったのか?なぜ榛村は、筧井くんに白羽の矢をたてたのか?どうか、みなさん自分の目で確かめてください。最後の最後まで薄ら寒いこと請け合いです。