読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

城戸喜由「暗黒残酷監獄」

 

暗黒残酷監獄 (光文社文庫)

 

 なかなか煽情的なタイトルでしょ?でも、内容は、このタイトルから期待する印象とは、ちと違う。少なくともぼくはそうだった。主人公は高校生の椿太郎。人妻との不倫をこよなく愛し、ちょっと常識とはかけ離れた思考回路をもつ男で、ここが好悪の分水嶺になっているみたいだけど、ぼくは肯定派であります。

 たしかに、自分の身内にこういう奴がいたら、なかなかめんどくさいことになるよね、とは思うけど、話としてはおもしろいし、いままでにないタイプの主人公なので、このスタンスを貫いて完走するのはなかなか大変じゃないの?と興味津々で読みすすめた。

 誰もが気になって引っかかってしまうのが、椿太郎の非情さだろう。まず彼の姉が磔にされて殺されるのだが、それに関しても淡々と受け入れ、なんなら日常に入り込む非日常の雰囲気をワクワクしながら、待ち望んでいるのだから大したものじゃない?

 そんな彼が殺された姉の残したメモの『この家には悪魔がいる』というメッセージを元に、事の真相を知るべく、私立探偵さながらあらゆる手を使って調べあげてゆく。

 で、事の真相は、なかなか入り組んだもので、ここでミステリとしての伏線と回収や殺しのトリックなんかが登場するわけなのだが、これがなかなか堂に入ったもので、しっかりした構築美があるから侮れない。

 結構内容はしっかりしている。こんな言いかた失礼だけどね(笑)。友達がいない孤立した状況のはずなのに、そこそこモテたりするところは違和感あったけど、それで話がおもしろくなってるんだから、それはそれでいいじゃない。でも、伏線回収が細かい部分にまであって、マザコンのヤクザがどこでどう出てきたのかが、ぼくの中でまだ回収しきれてない(笑)。

 この人、次書くのかな?かなり楽しみなんだけど。