読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

頭木弘樹 編「絶望書店 夢をあきらめた9人が出会った物語」

 

 

 まあ、バラエティに富んでますよね。少なくともぼくにはこれだけの作品を選出するスペックはありません。だって、山田太一のエッセイにはじまり、ベートーベンの書簡、イタリアの聞いたこともない作家の短編、トーマス・マンの兄貴の短編、連城三紀彦のあたたかいミステリ、サッカーのノンフィクションライターの豊福晋が描く世界のトップ選手たちの苦悩、藤子・F・不二雄の希望を与えてくれる挫折の物語、韓国の女流作家クォン・ヨソンの新たな視点を与えてくれる秀逸な短編そしてBUNP OF CHICKENの才悩人応援歌。

 これらの作品群が訴えかけてくるのは、夢をあきらめることについてのさまざまな形。かといって、それがネガティブな印象を与えるかといえば、そんなことはない。夢をあきらめることについて、前向きになるといっては語弊があるが、別にあきらめることが人生としての敗者になるのではないんだよということを教えてくれる。それは、重圧からの解放だ。夢は、希望でありモチベーションの要であり、明るい未来だ。だが、そこまでの道のりは険しい。それが高ければ高いほどやり甲斐もあり、達成したときの幸せはなにものにも勝る。

 夢をあきらめることがいけないことだなんて誰が決めた?一般的にそれを挫折というよね?そして、それは敗者としての立ち位置で語られる。誰もが夢を追いかけ、夢を求めて、夢にすがって生きている。しかし、それにとらわれてはいけない。それが原動力として潤滑に機能しているのなら問題はないが、それが枷や重荷になってはいけない。夢は希望に満ちた憧れであって、我が身を傷つけるナイフであってはならないのだ。

 そういったことが心の底から信じることのできる本が、本書なのであります。夢をあきらめるって、勇気のいることでもあるけど、大事なことなんだよ。