自分の事を包み隠さず、すべてさらけだして自伝を書くなんてこと、まず出来ないと思いました。
自分を美化することはいくらでもできますが、真の自分をさらけ出すなんて事どんなに勇気を出しても、
出来そうにありません。
それは、人前で裸になることよりも恥ずかしい行為のように思われます。
でも、三島由紀夫は、それを軽々とこなしているんです。
こういう赤裸々な姿を見せられてしまっては、こちらのほうが戸惑ってしまう。
でも、読んでるうちに自分にも同調する部分があると気づいてくるんです。
ぼくも、なんら彼と変わるところなどないではないか、とね。
自分の考えに戸惑ったり、自分は他人とは違うんじゃないかなんて思う事はよくあります。
ただ、それを追求しないで、とりたてて意識することがないから、何事もなく日常が過ぎていく。
他人と違うんじゃないかと思った時の自分をとことんまで追いつめてしまえば、そこにはおそらく血だら
けの自分が、咆哮する自分が、邪まな笑みをうかべている自分がいるはずです。
本性を曝けだした時、人は欲望のままに行動する獣になってしまいます。
それを抑えているのが理性であり、道徳であり、人間社会が決めた秩序なのです。そんな行動の基本原理
を少しでも外れた者が異端者(アウトサイダー)なのでしょう。
多かれ少なかれ、誰でも異端者の素質はあると思います。ぼくも然り。だから本書を読んだ時、ショック
も受けましたが、喜んでいる自分もいました。
この自伝でもあり、評論でもあり、恋愛小説でもある「仮面の告白」は、人間の極端な可能性を追求した
美と崩壊の物語だと思いました。
薄っぺらい本ですが、内容はゴルゴダの丘に向かうキリストが背負った十字架くらいの重さがありまし
た。心底読んでよかったと思いました。