読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

貫井徳郎「追憶のかけら」

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この人、気になってるんですが、まだ把握してません。今現在この一冊しか読んでおりません。

もっと代表的な作品もあるのに、評価も定まった本もあるのに、あえて本書を最初の貫井本として選んだ

のは別にこれといった理由もないんですが、なんとなく気になったんですよね。

で、初めての貫井作品。どうだったのかというと。

不覚にもラストでは泣いてしまいました。

温かい涙でした。人間の心の奥底にある悪意を最大限に突きつけられた後だっただけに、このラストシー

ンでは人間の愛の深さが無防備になったところに染み込んできて、言葉にできない感動を得てしまったん

です。

戦後間もなく自殺した作家の未発表手記を手に入れた大学教員。手記にはまだ解明されていない『謎』が

ありました。真相を追ううちにやがてその手記が贋作だということがわかります。手記をもとに論文を発

表した主人公は窮地にたたされてしまいます。誰がなぜこのような手の込んだ策を弄して自分を陥れたの

か?初め「手記」の謎にあてられていた焦点が、やがて主人公自身を巻き込む謎へと発展してゆく。何が

真実で何が嘘なのか?物語は二転三転し、そしてたどり着く真相に秘められた悪意。

久しぶりにミステリを読んで感動しました。ダメ男だった主人公が、どん底から這い上がって再生に向か

う姿は希望に満ちたラストでした。いい作品です。