読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

デヴィッド マドセン 「グノーシスの薔薇」

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 おもしろかったですね。充分堪能しました。確かにエログロ描写はテンコ盛りなんですが、それにもまして物語の魅力が素晴らしい。豊穣にして壮麗、荘厳にして蠱惑的な世界は小説のおもしろさをこれでもかとわからせてくれます。ルネッサンス期のローマは世界的な芸術家を輩出した黄金の時代という華やかな顔を持つ反面、異端審問や宗教戦争などの残酷で暴力に溢れた時代でもありました。世にも稀な醜い小人の教皇御付が回想するこの相反する時代。権謀術数、欲望、策略にまみれた禁断の聖地。歴史の語られることなかった暗部が明らかになるミステリとしてのおもしろさも相まってページを繰る手が止まりません。

 醜い小人のペッペはとても魅力的な人物です。教皇レオ十世もベッドでは女役を好むという困った性癖がありますが、憎めない愛すべき人物です。そうそう、本書にはあのダ・ヴィンチが登場するんですが、この場面は特筆ものです。このペッペとダ・ヴィンチが会見する場面を読むだけでも本書を読む価値ありってくらい印象深い場面です。なにが印象深いって、ダ・ヴィンチがああいう人物だとは思いもしなかった・・・・。

 ペッペの信奉する教義は、本書を読み終わったいまは異端なのかどうかよくわかりませ ん。確かにその儀式や典礼はなかなか淫らで異様なものですが、本書の最後に出てきた傍点をふった言葉は、ぼくが常々感じていたこととドンぴしゃりだったんです。う~ん、なかなか奥深い本だ。