読書の愉楽

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ロバート・ウェストール「かかし」

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 本書は全編通して重苦しい雰囲気に包まれています。

 主人公の少年サイモンは、思春期特有の難しい時期にあり、世のすべての事を否定的にとらえ、どうしょうもない衝動を内に秘めて不満にまみれています。彼の父親は先の戦争で戦死しており、まだ若くて美しい母は独り身のさびしさから、再婚してしまいます。父親を敬愛していたサイモンは、再婚相手の男性が俗物的に見え、太った外見もあいまって嫌悪感を抱いてしまいます。学校でも、家族の中でさえも居場所のない彼は閉塞感にとらわれてしまいます。

 読み始めは、どうにも主人公のサイモンに共感できず、遅々として進まなかったんですが、やがて彼が唯一の拠り所とする水車小屋に通うようになったあたりから、俄然物語が生彩を放ちはじめるんです。

 その水車小屋は、使われなくなって数十年たつだろうと思われるのですが、サイモンが中に入ると、ついさっきまで誰かがいたかのような錯覚をおぼえます。あたり一面ぶ厚くホコリがつもっていて、テーブルに置いてあった新聞は手に取るとボロボロ崩れてしまい、壁にかかった男女三人分のコートはカビ臭い匂いを放っているにも関わらず、サイモンはそこに人の気配を感じるんです。普通なら気味が悪い状況なのにサイモンはそこに居心地の良さを感じてしまいます。近くに住みついてる野良猫は人懐っこいにも関わらず、けっしてその水車小屋の敷居をまたぎません。サイモンが抱き上げて中に連れて入ろうとすると、狂ったように暴れる始末。

 このあたりから物語は異様な盛り上がりを見せ始めます。ある日、突如水車小屋の前に現れた三体のかかし。誰が置いたのかわからない。前の二体は男女。後ろで頭をうつむけ顔の見えないのは男のようですが、このかかしは前のかかしに何かしようとしている感じで配置されている。

 不気味なイメージがどんどん盛り上がっていきます。ほんとにジュブナイル?ってくらい怖いんです。

 いやあ、これはなかなかの傑作だ。ラストはちょっとあっけない気もするけど、でもこの全編とおしての心理的な緊張感はタダモノではありません。子どもにはほんとに怖いんじゃないかな?