読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

オードリー ニッフェネガー 「 タイムトラベラーズ・ワイフ 」

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 残酷な話だと思います。これほど痛みをともなうタイムトラベル物は、初めてです。

 

 ロバート・F・ヤングの短編に「リトル・ドッグゴーン」という短編があるんですが、あれを読んだ時に感じた胸を衝く痛みと同じ感触です。ヤングの方はタイムトラベルじゃなくてテレポートを扱っていたんですけどね。

 

 どうであれ、本書は良かった。作者ニッフェネガーの組み立てた巧みなプロットには、正直いって最初とまどいました。主人公ヘンリーのタイムトラベルが起こる頻度、時期は非常にアトランダムで、法則性はまったくありません。唯一限定されるのは、場所だけなんです。場所だけは、ヘンリーに由来する何処かに特定される。そして、タイムトラベルするのは彼の肉体だけ。そう、彼は飛んだ先に全裸で現れることになるんです。だから、彼がタイムトラベル後にまずしなければならないのは、衣服の確保なんです。そのことで後々彼は、とても辛い目にあうことになります。はっきりいって上巻は、壮大な伏線のようなもの。しかし、とまどいながらも読者はあれよあれよという間にページを繰ってしまいます。いくつかのひっかかりを残してね。

 

 そして下巻。ここへきて読者は知ることになります。ヘンリーとクレアの未来に待ち受ける避けられない運命を。自分の運命を知る辛さとは、どんなものなんでしょう?ぼくなら、その重圧に耐えきれず気がふれてしまうかもしれない。愛する人を失う恐怖で気が変になってしまうかもしれない。

 

 この話は全体的に明るい雰囲気で、ユーモアもあります。しかし、それゆえに厳しくて、残酷な側面が強調され、読者の胸に迫ってくるのでしょう。

 

 不思議と読後感はあたたかい気持ちになります。こっぱづかしいですが、『愛』のやさしさに包まれて心が落ち着いていくんです。