読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ジョン・スタインベック「エデンの東」

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 今回、新訳が出たということで、このジェームス・ディーン主演の映画で超有名な作品を読んでみたのですが、久しぶりに小説を堪能しました。もう、淫したといってもいい。正直いって読む前は、これほど心をとらえる本になるとは思っていませんでした。第一、このリーダビリティはどうでしょう。いったん読みだすとページを繰る手が止まりませんでした。

 

 人間が人間であるがゆえの様々な葛藤が、巧みに物語に織り込まれ根源的な善と悪の対比と呼応してシンフォニックな重厚さをかもしだしています。人間は、常に問いかける生き物、自分を理解していない生き物、障害を乗り越えてゆかねばならい生き物なんですね。いつもつまずいて、どこかに頭をぶつけ、これでいいのだろうかと自問自答する。賢明であればこそ、間違いもする。邪まな誘惑になびいてしまう。なにが正しいなんて答えがないから、誰もが悩むのでしょう。

 

 本書に登場する人物で真から賢人とよぶべき人物が二人いました。一人は中国人召使のリー。彼の存在は、本書の中でまぶしいくらいに光り輝いています。ぼくも彼のようになりたい。彼の倫理を貫いた賢明なアドバイスは、読んでいて何度大きく頷いたことか。事に対処する彼のやり方は、神々しくさえある。
 ほんとに素晴らしい人物です。

 

 もう一人は、アブラ。彼女は自分の中に獣を棲ませていながらも、それを飼いならし取り乱すことがありません。一見クールですが、じつはとても熱いものをもっている。彼女の頭の良さには敬服しました。

 

 忘れがたい登場人物は他にもいます。なんといっても魅力的なのが、サミュエルですよね。彼のバイタリティには恐れいりました。死してなおこれほど人々の胸に去来する人がいるでしょうか。偉大な存在でしたね。

 

 あげていけばキリがありません。じつをいえば、本書にでてくる主要人物はすべて大好きなんです。あのキャシーでさえもね。とにかく読んでよかった。心からそう思いました。