読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

姫野カオルコ「彼女は頭が悪いから」

東大生五人が一人の女子大生に対する強制猥褻行為で逮捕されたというニュースを知ったとき、まず思ったのは『もったいないな』だった。そう、ぼくは東大まで行って何してんだと、人生棒にふったなと、そう思ったのである。このとき、被害にあった女性のこと…

青柳碧人「怪談青柳屋敷」

実はぼくも怪談系は好きでして。こういう実話系の体験談はなかなかいいものには出会えませんが、機会があれば読んでみたいタチでして。 で、なんとなく手にとってみたわけ。この作者のことは昔話ミステリシリーズの作者くらいしか前知識なくて、でもそういう…

「デビュー50周年記念! スティーヴン・キングを50倍愉しむ本 」【Kindle】

きゃー!キングなのよー!こう見えてもワタクシ、ちょっとしたキング・フリークなんですのよ。といっても、彼の本をすべて読んでいるってワケでもないんだけど、こういうイベント的なのには目がなくて、飛びついてしまいました。それに、みなさん、これ無料…

ジェイムズ・ホワイト「生存の図式」

これかなり古い作品なのに、今ごろになって文庫化されたもんだから、興味ひかれて読んじゃった。でもこれが、月並みな表現で申し訳無いんだけど、ほんと古さを感じさせなくて読み応えバッチリなのだ。 300ページほどだから紙幅はほどほどなのに、どうよ、こ…

パウル・シェーアバルト「セルバンテス」

ドンキ・ホーテ・デ・ラ・マンチャについては、いつかは読んでみたいと思っているのだが、なかなか手が出ない。とりあえず、敬愛する皆川博子が言及していた本書を読んでみた。 といって、これは幻想小説に目がない皆川先生がパウル・シェーアバルトの紡ぐ奇…

クリスチアナ・ブランド「濃霧は危険 (奇想天外の本棚)」

ブランドだからといって飛びつくわけではないのだが、山口雅也氏の奇想天外の本棚の一冊だし、興味に抗えなかったというわけ。でも、やはりジュブナイル枠というだけあって、なんとなくいいくるめられた感のある御都合主義満載で、話の筋的にはありえない展…

ルシア・ベルリン「掃除婦のための手引書 ルシア・ベルリン作品集」

愛される理由はそれぞれだ。なにがきっかけになるかは千差万別、それこそ運命だ。また、幸せを感じるのは能力だ。それが幸せかどうかは、その人が感じるものであってその能力が高い人ほど幸せを感じとる機会が増える。気持ちの持ちようは、その人の性格を固…

「ギリシャSF傑作選 ノヴァ・ヘラス」

攻めてるよね、竹書房。一皮剥けたっていうか、方向転換ていうか。決してメジャーにはならないんだろうけど、この新生 竹書房を歓迎している人もきっと多いはず。ギリシャSFなんて、日本語で読める日がくるなんて思ってましたか、みなさん! というわけで、…

ルイス・フロイス「回想の織田信長-フロイス「日本史」より」

資料としても一級品だろうし、なにより実際に織田信長に接した人物の生の声が聞けると思い読んでみた。確かに、この中には信長がいた。史実と変わらぬあの信長だった。唯一無二で決断がはやく、性急で激昂もよくするが、平素は穏やかで人情味と慈愛を示した…

君嶋彼方「君の顔では泣けない」

なんの予備知識もなく本書を読めば、だれもが『お?これって不倫の話?』と思う書き出しではじまる本書は、男女入れ替わりのお話なのである。 その昔、このジャンルで大いに感銘を受けた作品があって、それは「オレの愛するアタシ」という本で筒井広志の作品…

彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない」

家族であることの幸せは、お互いを愛す喜びでもあると思う。しかし、それは時に世代の流れにのまれて息ができなくなる窮屈さをともなうこともある。良かれと思って、守ろうとして、可愛いがゆえに、愛するがゆえに逆にその対象を傷つけてしまう矛盾が生まれ…

「開化の殺人-大正文豪ミステリ事始」

収録作は以下のとおり。 「一般文壇と探偵小説」江戸川乱歩 「指紋」佐藤春夫 「開化の殺人」芥川龍之介 「刑事の家」里見弴 「肉店」中村吉蔵 「別筵」久米正雄 「Nの水死」田山花袋 「叔母さん」正宗白鳥」 「「指紋」の頃」佐藤春夫 解説 北村薫 副題に「…

高山羽根子「オブジェクタム/如何様」

このなんともとらえどころのない展開に翻弄される。すべて幻想譚だ。途中で様相が一変する。何を見せられているんだ?とまごついてしまう。 特に驚いたのが「太陽の側の島」。戦時中の話なんだなと思って読んでいると、目玉飛び出します。どこかの南国の島に…

ブライアン・アザレロ、リー・ベルメホ「 ジョーカー[新装版] 」

この表紙の禍々しさ。ゾゾ毛たちまくりだもんね。邪悪で、汚くて、オゾマシイ。それが一発で感じとれちゃう表紙でしょ? みなさん、ご存じジョーカーなのであります。バットマンに登場する最大の宿敵。犯罪界の道化王子との異名もあるこのサイコパスのヴィラ…

頭木弘樹編「うんこ文学 ――漏らす悲しみを知っている人のための17の物語」

うんこ漏らしたことあるかって?そりゃ、ありますよ。オナラするつもりが、下痢っててでちゃったとか、いままでの人生で何回もありますよ。でも、正常の状態で便意をもよおして、トイレに間に合わず漏らしちゃったってのはないなー。でも、そういう危機に陥…

ペーター・ビクセル「テーブルはテーブル」

ナンセンスなのにちゃんと完結している。帰結がしっかりしているから、変なの、で終わらない。収録作は以下のとおり。 「地球はまるい」 「テーブルはテーブル」 「アメリカは存在しない」 「発明家」 「記憶マニアの男」 「ヨードクからよろしく」 「もう何…

傑作! 文豪たちの『徳川家康』短編小説

勝手に宝島社文庫だからって、なんか軽い感じに思っていて、実際読んでみてなかなかの読み応えに驚いております。収録作は以下のとおり。 南條範夫「願人坊主家康」 山本周五郎「御馬印拝借」 滝口康彦「決死の伊賀越え――忍者頭目服部半蔵」 火坂雅志「馬上…

平山夢明「俺が公園でペリカンにした話」

これまで刊行された平山夢明の本の中で一番分厚い。しかも連作ときた。いままでにないパターンだ。全部で20話。なげーよ。サイテーだよ。何読ませんだよ。特別だよ。いたしかたないんだよ。雨も降ってんだよ。なのに読んじゃうんだよ。でも、続けて読めねー…

西村賢太「瓦礫の死角」

久しぶりに西村作品を読んだ。ここに収められているのは 「瓦礫の死角」 「病院裏に埋める」 「四冊目の『根津権現裏』」 「崩折れるにはまだ早い」 の四編。最初の二編は若かりし頃の貫太の怠惰で醜悪な日常が描かれる。といっても、これが西村作品の持ち味…

春日武彦「屋根裏に誰かいるんですよ。  都市伝説の精神病理」

特別「屋根裏の散歩者」に思い入れがあるわけではない。ていうか乱歩自体あんまり好きじゃないんだけどね。一応、その短編は読んでいるんだけど心にも残っていない。だから、屋根裏を徘徊するだとか、そうして他人の私生活を窃視するとか、そういった行為に…

「非日常の謎 ミステリアンソロジー」

なんとなく講談社タイガって、ラノベのレーベルなんだと認識していたけど、違うんだね。 普段あまり手出さないレーベルなんだけど、作家陣に興味引かれて読んじゃいました。収録作は以下のとおり。 「十四時間の空の旅」辻堂ゆめ 「表面張力」凪良ゆう 「こ…

山田風太郎「元禄おさめの方 時代小説コレクション 天の巻」

久しぶりの風太郎なのであります。知らない短篇がほとんどだから、読まなくっちゃね。ラインナップは以下のとおり。 「万人坑」 「蓮華盗賊」 「降倭変」 「幻妖桐の葉おとし」 「黒百合抄」 「家康の幕の中」 「叛心十六歳」 「元禄おさめの方」 相変わらず…

高畑京一郎「タイムリープ(上下) あしたはきのう」

確か、これの旧版持ってたと思うんだけど、見つかんないから新装版買っちゃった。で、読んでみたんだけど、これ上下巻に分けちゃだめだよね。一冊にしたら千円までで買えたんじゃないだろうか。こんな薄いのに二巻に分けるって、あざといなー、まったく。 ま…

「四神足」

悲しい気分がなくならないので、今よりハッピーになるようにお参りしようと出かけたはいいが、どこへ行けばいいのかまったく思い浮かばず、あてどなく歩いていたら、北へ二十里進んだところに大きな石の上にのった給油機があった。 給油機なのである。しかし…

呉 勝浩「爆弾」

話題作だもんね。しかも、ちょっと前に「雛口依子の最低な落下とやけくそキャノンボール」を読んで、こりゃあ凄い書き手だと認識したところだったから、期待するよね。 無差別爆破テロ。こんなのが本当にあったら、手も足も出ないよね。偶然誰かが爆発物を見…

オルハン・パムク「無垢の博物館(下)」

語りは主人公ケマルのものなのだが、物語半ばでオルハン・パムクが登場し、この本は彼が書いていることがわかる。また、ケマルが私設博物館を創設して、そこに愛するフュスンゆかりの品を展示していることもわかってくる。しかも、読者はそこを訪れてケマル…

相沢沙呼「invert II 覗き窓の死角」

続けて読んじゃった。今回は中編が二つ収録されている。まず「生者の言伝」だが、嵐の夜に山中で車が故障して助けを求めた館で翡翠たちが遭遇する事件が描かれている。奇妙なことに、その館には中学生の男の子が一人しかおらず、しかもきれいなお姉さん二人…

相沢沙呼「invert 城塚翡翠倒叙集」

前回の「medium 霊媒探偵城塚翡翠」は、ほんと久々に驚かされたミステリだったが、あれの続編ていったいどうなるの?と思っていたら、倒叙集となってかえってまいりました。ミステリ好きならおなじみの倒叙。犯人と犯行は最初からわかっていて、どうや…

オルハン・パムク「無垢の博物館(上)」

無論オルハン・パムクも初めてだし、トルコの作家の手になる小説も初めてだ。しかも、本書の物語が描かれている年代が70年代なのである。当時のトルコにおいて男女の恋愛は、大前提に結婚があり、婚前交渉などはもってのほかという風潮だ。ま、ここらへんは…

呉勝浩「雛口依子の最低な落下とやけくそキャノンボール」

変わった話なのである。かなりね。開巻早々、猟銃乱射事件の記事が目に飛び込んでくる。死人が出てるし、無差別殺人かなんかなの?と思いながら、この事件を頂点に物語が語られるんだろうなと予測する。 しかし、しかしだ。話はいきなりシフトするのである。…