読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

海外SF

ジョン・スラデック「蒸気駆動の少年」

スラデックは、ぼくの中ではトム・リーミイと並んでアメリカSF界の二大奇人という位置づけになっているのだが、今回この短編集を読んでやはりこの見解は間違ってなかったと納得した。 この人の作品は、単なるアイディア・ストーリーの範疇に収まらない独特…

フィリップ・K・ディック「ユービック」

いままで本書をいれて5冊ディックの本を読んできたが、本書は「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」や「パーマー・エルドリッチの三つの聖痕」と並んで、リーダビリティとエンターテイメント的要素を兼ねそなえた傑作だった。ミステリタッチですすめられ…

シオドア・スタージョン「[ウィジェット]と[ワジェット]とボフ」

収録作は以下のとおり。 ◆「帰り道」 ◇「午砲」 ◆「必要」 ◇「解除反応」 ◆「火星人と脳なし」 ◇「[ウィジェット]と[ワジェット]とボフ」 以前「海を失った男」を読んだときにも感じたことなのだが、若島正のセレクト作品には同じスタージョンでも少しマニア…

アルフレッド・ベスター「ゴーレム100」

ベスターの「虎よ、虎よ!」は、まったく期待外れの結果に終わってしまったのだが、晩年に書かれた本書は結構楽しめた。 SF的アイディアとか、過去のSF作品の換骨奪胎とか、ベスター流のSF批評だとかいう小賢しい要素は別にして、この乱痴気騒ぎともい…

マイクル・クライトン「ジュラシック・パーク」

この作品は映画の方が有名なので、誤解されてる部分があるかもしれない。本書を読んでこの作品のおもしろさを充分承知しているぼくでさえ、いまではこの作品を軽々しく認識している部分がある。それもこれも映画の印象が強いゆえ、メディアに商品化された作…

フィリップ・K・ディック「流れよわが涙、と警官は言った」

本書のラストでの一場面は、なんでもない場面ながら妙に心に残る。人間の悲しみゆえの衝動がうまく描かれていると思う。そこに配されているのが黒人というのも絵になる。 しかし、本書には見事に裏切られた。読む前は『存在しない男』となった主人公が日常を…

マイク・レズニック「第二の接触」

この人の書くものは安心して読めるから好きだ。レズニックはSF作家ではあるが、その前にたいした小説家なのである。前に紹介した「アイヴォリー」などはそんな彼の、どちらかといえば重厚な面が強調された読み応え充分なSF大作だったが、本書はうってか…

テリー・ビッスン「ふたりジャネット」

河出の奇想コレクションは、こういった選集の嚆矢ともいえる早川の『異色作家短編集』と双璧を成す選集に育ちつつある。このシリーズが出た当初はこれだけ素晴らしい選集になるとは思ってもみなかった。 本書はそんな傑作選集の第三弾として刊行された。正直…

フィッツ=ジェイムズ・オブライエン「失われた部屋」

ポーとビアスを架橋する作家なんていわれている。この人が活躍した当時はまさしく時代の寵児となり、文名を馳せたそうだが、今ではあちらでもこちらでも、もう忘れさられた作家である。 しかし本書に収録されている十作品を読んでみると、これが案外イケてた…

アルフレッド・ベスター「虎よ、虎よ!」

ようやく読んだ。不滅の名作だということだが、ぼくはこれまったく受け付けなかった。なにが合わないって、主人公のガリヴァー・フォイルにぜんぜん共感できなかったのがまず一つ。それとこれはぼくに問題があるのだろうが、復讐の物語というのが基本的に好…

「SF感涙本ベスト3』本学大学SF学部レポート

少ないながらも細々とSF畑の作品を読んできたのだが、その中で三冊だけホロリと涙を流したごっつぅええ話というのがあった。ほんと偏った読書歴の上に今の自分があるのは重々承知の助、SFを読んでるといってもアシモフ、クラークの作品はいまだ一冊も読…

ダン・シモンズ「ハイペリオン」

なんでもこなす器用な作家ダン・シモンズのガチガチのSFである。しかし、本書は決して片手間に書かれた筆汚しなどではない。並のSF作家が束になってかかっても太刀打ちできない程の素晴らしいSF叙事詩なのだ。本書のすごいところはSFという特定のジ…

コニー・ウィリス「最後のウィネベーゴ」

コニー・ウィリス、コニー・ウィリス、コニー・ウィリス!本書を読んで確信した。ぼくは彼女が大好きだ。気づくのがなんて遅かったのだろう。こんなに素敵なSFは久しぶりに読んだ。こんな素晴らしい小説は久しぶりに読んだ。彼女の本は「犬は勘定に入れま…

アルフレッド・ベスター「願い星、叶い星」

ベスターといえば、やはり「虎よ、虎よ!」が超有名作品であり、数あるSF作品の中でも最重要図書として知られているが、あいにく未だ読んだことがない。今回紹介するのは、短編集である。 この奇想コレクションに加えられたベスターの短編集、半分がた期待…

ダニエル・キイス「アルジャーノンに花束を」

この作品には思い入れがある。まさに定番中の定番で、いまさらながら紹介するのは恥ずかしいのだがやはりブログという表現の場を借りてこの本のことを語っておきたい。 ほんとうに、この本に関してはなりふりかまわず賞賛の声を届けたいと思う。こっぱずかし…

シオドア・スタージョン「輝く断片」

河出の奇想コレクションで唯一2冊出てるのがスタージョンなのである。このシリーズ現在9冊刊行されていて、ぼくが読んだのはその内5冊。中にはどこがおもしろいのかよくわからなかった作品(アヴラム・デイヴィッドスン「どんがらがん」これはあの殊能将…

ハーラン・エリスン「世界の中心で愛を叫んだけもの」

エリスンといえばなかなか型破りな性格で、バクチクのような危険なおっさんというイメージがある。 事実彼の残した逸話は数多い。あのアシモフに向かって「おまえ、なってねえなぁ」と言ったとかフランク・シナトラと大喧嘩したとか「ターミネーター裁判」を…

フレデリック・ポール「ゲイトウェイ」

太陽系、金星の小惑星で千隻あまりのスペースシップが発見される。しかし、そこにはそれらを使っていた者の痕跡は何も残ってなかった。人類はその者たちをヒーチ-人と名づけ、手がかりなしにスペースシップの操縦法を模索する。やがて試行錯誤のすえ、なん…

J・P・ホーガン「星を継ぐもの」

この本も、元々まったく読む気のなかった本だった。SFは読むけど、ハードSFとなると専門的な知識がないので二の足を踏んでいた。 じゃあ、どうして本書を読む気になったのかというと、それは当時(1986年)指針として大変重宝していた文春文庫の「東…

マーガレット・セントクレア「どこからなりとも月にひとつの卵」

この作品はサンリオSF文庫の中でも人気の高い作品で多大な期待をよせて読んだのだが、見事にコケた^^。ほんと期待ハズレもいいところだった。 数々の本書に関する言及から予想していたのは、もっと叙情的な、感傷的な作品だったのだ。 しかし、作者の描…

ジョージ・アレック・エフィンジャー「重力が衰えるとき」

猥雑な未来というのは、どことなく魅力的である。 退廃的で狂気が日常化していて、そこへもってドロくさいごちゃごちゃした機械文明がわが物顔であふれかえっている。犯罪が生活の一部になっている。映画「ブレード・ランナー」が魅力的だったのも、そういう…

カート・ヴォネガット・ジュニア「スローターハウス5」

散文の集会にして総合的にはメタSFの体裁をとりながらも、おふざけとブラックなユーモアの散りばめられた戦争悲劇である。 主人公ビリー・ピルグリムのたどるトラルファマドール的時間転移旅行は、およそでたらめでありトラルファマドール的に解釈されなけ…

P・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」

傑作だ。映画「ブレード・ランナー」も映画史に残る傑作だったが(ルドガー・ハウアーの表情の秀逸なこと)、原作である本書はさらによい。 映画ではアンドロイドと人間の死闘に焦点が絞られてたが、原作ではその部分よりも異常な未来という世界観が詳細に描…

クリストファー エヴァンズ 、ロバート ホールドストック 編「アザー・エデン ―イギリスSF傑作選」

これも今では絶版になっているんだろうな。 強力推薦します!っていう類の本ではないが、なんかさみしい。 というわけでイギリスSF傑作選である。 今回は収録作全作について簡単に紹介してみよう。■ タニス・リー「雨にうたれて」 母娘の愛憎からまるとこ…

フレドリック・ブラウン「発狂した宇宙」

これは、おもしろかった。 まだSFにも超未熟な時期に読んだにもかかわらず、大変楽しんで読了したおぼえがある。本書はパラレル・ワールド(多元宇宙)物の傑作なのだ。 書かれた時代が古いから、いまの時代からみれば理論なんか子どもの屁理屈くらいにし…

ロバート・シェクリィ「人間の手がまだ触れない」、「宇宙市民」

シェクリイは、一時期短編の名手として名を馳せた。 読めばわかるが、実際シェクリイの短編は小気味よくユーモアを漂わせ、たんなる奇想的な作品に留まらない機智にあふれている。 彼が好んで描くのは、異星人とのファーストコンタクトだ。 今回紹介する二冊…

マイク・レズニック「アイヴォリー」

まず、本書の主人公である象牙が実在のものだということに驚いた。 本書の冒頭には一枚の写真が載っている。 どうですか、この写真。化け物みたいな象ではないか。マンモスなんじゃないの。 その象牙がたどる6千年以上の歴史を見事に描き出し、ロマンあふれ…

ジョー・ホールドマン「終わりなき戦い」

「今夜は、音をたてずに人を殺す八つの方法を教授する」 このあまりにも有名な書き出しではじまる本書は、ベトナム戦争を下敷きにした傑作ハードSFである。 読む前から『これ絶対読むことないだろうな』って感じる本が誰でもあると思う。 ぼくも、本書がそ…

P・K・ディック「銀河の壺直し」

ディックはまだ三冊目だが(「パーマー・エルドリッチの三つの聖痕」、「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」)本書はたしかに以前読んだ二冊とは、印象を異にする。何がどうとかよくわからないが、なんか勝手が違う。 グリマングなんていう超生命体や、絶…

シオドア・スタージョン「不思議のひと触れ」

スタージョン再評価の中で出版された本書は、スタージョン初心者にもおおいにオススメできる傑作短編集です。 本書より前に刊行された「海を失った男」は、少しマニアックすぎるきらいがあり、スタージョン初心者には少し重たいんじゃないかと思ったし、ぼく…