読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2013-04-01から1ヶ月間の記事一覧

皆川博子「少年十字軍」

神の啓示を受けた羊飼いの少年エティエンヌはエルサレム奪還の為、かの聖地を目指す旅に出る。当初彼に従った者は数人の子どもたち。しかし、その行軍は世間の風評と共に次第にふくらみ百人以上の大所帯となっていった。彼らをとりまく聖職者や陰謀をめぐら…

飛浩隆「象られた力」

SFを読む喜びって色々あると思うけど、得てしてそれがネックとなって敬遠している人も多いのだろと思う。ぼくの認識では基本的にSFってホラ話なんだよね。いかにしてありえない話をいかにもっともらしく語り通してくれるか。それがSFの基本でありルー…

平山夢明「暗くて静かでロックな娘」

本書は前回の「或るろくでなしの死」で感じたわずかな不満をきれいに払拭する短編集だった。本書には10編の作品が収録されている。タイトルは以下のとおり。 「日本人じゃねえなら」 「サブとタミエ」 「兄弟船」 「悪口漫才」 「ドブロク焼場」 「反吐が…

ジュリアン・バーンズ「終わりの感覚」

若くして自殺した友。過去の記憶として頭の片隅にしまわれていたその事実がある出来事がきっかけでまったくちがう様相を見せる。 本書は中編といってもいいような短さの作品なのだが、これほど集中力を使って真剣に行を追った本もめずらしいといえる。 主人…

ジョイス・キャロル・オーツ「とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢」

ジョイス・キャロル・オーツは、多作にも関わらず日本での紹介が行き届いていない、かわいそうな作家だ。彼女の短編集にしたって18年前に刊行された「エデン郡物語」が一冊あるだけで、小説に限ればその他はYA作品と何冊かの長編があるだけだ。もっとも…

間違いの悲劇

オドトゥは真っ白で青い目、ピンクの耳がいつもピンと立っている。長い尻尾をふりふりしながら優雅に歩くさまは気品にあふれている。 変わってブロンコは黒く金色の目がいつも鈍く光っている。短く切られた尻尾はまるでコブのように盛り上がり、音もなく獲物…