読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2012-07-01から1ヶ月間の記事一覧

あせごのまん「余は如何にして服部ヒロシとなりしか」

内村 鑑三の「余は如何にして基督信徒となりし乎」とはまったく関係ない。同じタイトルだとしてもね。まったく人をくった話なのだ、この表題作は。魅力的な尻に惹かれてつけていった女は中学の時の同級生服部ヒロシの姉だった。彼女に誘われるままに不気味な…

東出祐一郎「ケモノガリ」

限られた人間だけが莫大な入会金と徹底した調査の上で参加できる殺人を享楽する『クラブ』。彼らは独立間もない東欧の小国の一都市を買い取ってそこで人間狩りを行っていた。日本から修学旅行で訪れていたとある高校の一団が拉致され獲物として供給される。…

コルタサル「遊戯の終わり」

アルゼンチンの作家フリオ・コルタサルの短編集である。以前国書刊行会から単行本として刊行されていたが、長らく絶版だったのを岩波文庫から加筆、修正しての刊行なのである。だから、名のみ知る本を読めると思ってけっこう期待が大きかった。 ところがであ…

「誰も悪くはない海」

さして意味のある言葉でもなかった。きみが言い放ったその言葉は空を舞った。 「どうでもいい!」 ぼくもどうでもよかった。窓の外は英語の空だった。意味のないアルファベットが無数に飛んでいた。涙を浮かべたきみの顔には虚しさだけが張りついていた。長…

ロジャー・スミス「血のケープタウン」

いまさらながら、本書を読んでいて海外は怖いなあと思うのである。本書の舞台は南アフリカのケープタウン。いうまでもなく世界でも有数の犯罪都市だ。麻薬常習者、ギャング、悪徳警官そして罪を犯してアメリカから逃亡してきた一組の家族。役者が出揃ったと…

J・L・ボルヘス「汚辱の世界史」

本書に収録されているほとんどの作品はボルヘスの創作ではなくて原典があるものばかりだ。ようするにオリジナルの話ではないということ。収録作を挙げると 『汚辱の世界史』 ラザラス・モレル ――― 恐ろしい救世主 トム・カストロ ――― 詐欺師らしくない詐欺師…

ブノワ・ペータース作 フランソワ・スクイテン画 「闇の国々」

本書はいままで読んできたBD(バンド・デシネ)作品の中で一番大きくて一番分厚かった。しかし、それだけの内容のある本だったのは間違いない。 本書で描かれているのはタイトルそのままの『闇の国々』のお話。それは、いま我々が生きている世界とはまた別…

ビックリ体験を教えてください

いまは昔、まだぼくがペーペー社員だった頃。 寝坊してしまったぼくは、とにかく遅刻しないよう車を平均時速70キロで快調に飛ばしていた。 A町の街中を運転中、後ろから猛スピードでやってきたジープが、ぼくを追い越そうとした。 させるか!そう思いぼく…

板倉俊之「蟻地獄」

友人の修平と組んで違法カジノでイカサマをして大金をせしめようとした二村孝次郎。だが、うまくいったかに見えたイカサマは見破られ、修平を人質にとられた孝次郎は五日の期限を切られ三百五十万を用意しなければならなくなってしまう。いったいどんな方法…