読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2011-08-01から1ヶ月間の記事一覧

ドン・ウィンズロウ「フランキー・マシーンの冬(上下)」

凄腕だった殺し屋が、いまは現役を引退してサンディエゴで堅気として暮らしている。釣りの餌屋と不動産屋とリネンサービスを掛け持ちし、朝のはやい『紳士の時間』に愛するサーフィンをすることを生甲斐にしている62歳。別れた妻とも良好な関係を結び、愛…

新堂冬樹「悪虐」

新堂冬樹の本は以前に「無間地獄」と「溝鼠」の二冊を読んだ。その二冊で新堂冬樹はもういいやと思った。どちらもおもしろくなかったわけではない。過剰な暴力を売り物にしているだけあって、よくそこまで書けるなと思うほど惨たらしい場面が延々と続いたが…

「雨の日の美容室」

こんな夢をみた。 彼女と一緒に雨の中、美容室に行った。そこはめずらしくボードウォークのある店で、ぼくは彼女と並 んでボードウォークに設置してある椅子に座らされた。髪を切る前に軽く洗髪いたしますと言って椅子の 背を倒しながらクルッと向きを変える…

津原泰水「11 eleven」

以前「綺譚集」を読んだときは『インモラルで、スプラッターの凄惨を極め、時に変態的でもある究極のエロスに徹し、常に尋常でない雰囲気をまとっている』と書いた。そして残酷さと美のバランスがとれておらず、そういった意味では皆川博子の短編と比ぶべく…

沼田まほかる「彼女がその名を知らない鳥たち」

一般的な常識を持ち、道徳、倫理的に人の道を外れていない普通の人々にとって、本書の内容は非常に不愉快なものである。なんせ、本書に登場する男女の誰一人として好きになれる人物がいないのだ。 主人公は八年も前に別れた黒崎俊一という男のことが忘れられ…

ジェームズ・ボーセニュー「キリストのクローン/真実」

「本が好き!」の献本である。 前回「キリストのクローン/新生」の感想で、いったいこの先どうなってしまうんだろうと興奮気味に書いていたのだが、この作者、その期待に充分こたえてくれている。なんせ、今回の最大の見せ場はあの『ヨハネの黙示録』なのだ…

ジェイムズ・ジョイス「ユリシーズ Ⅰ」

昔からぼくはギリシャ神話なんかに特別惹きつけられるものをもっていて、だからそれをモチーフにした文学作品にもほのかな憧れを感じていた。ジョン・バースの「キマイラ」やこのジョイスの「ユリシーズ」などはその中でもとびきり魅力を感じるタイトルであ…

大樹連司「オブザデッド・マニアックス」

ゾンビマニアのオタク高校生 安東丈二は、夏期合宿として本土から数百キロ離れた紋浪(あやなみ)島に来ている。クラスの中では目立たぬ存在で、みんなからは軽く無視されているのだが、彼としては大好きなゾンビ映画が観れて、学級委員長の黒髪が素敵な城ヶ…

児玉清「寝ても覚めても本の虫」

今年の五月に亡くなられた児玉さん。紳士という言葉がこれほどぴったり当てはまる人もいなかった。ぼくは特別この人のファンでもなかった。しかし、彼がオススメする本には敏感に反応した。いまとなっては何がきっかけで児玉氏に注目するようになったのか定…

かじいたかし「僕の妹は漢字が読める」

この本が成そうとしていることは、もしかすると結構すごいことなのかもしれない。はっきりいって、まだ本書を読んだだけでは、そこのところが判断できない。なぜならこの物語はまだ閉じていないのだ。 そう、ここで語られる一見したところなんとも脱力してし…

古本購入記  2011年 7月

ここ最近、文学界に由縁のある方が続けて亡くなられた。まず一人目は翻訳家の上田公子さん。上田さんといえば、ぼくの中ではトニー・ケンリック。「リリアンと悪党ども」と「三人のイカれる男」の二冊しか読んでないが、こなれた訳はとても印象深かった。あ…