読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2009-01-01から1ヶ月間の記事一覧

恒川光太郎「夜市」

ぼくの好みでいえば、表題作より「風の古道」のほうが良かった。人間界とは隔絶された幻の道。いにしえより人でない者たちが行き来してきた魔物の道。そこに迷い込んでしまった男の子の数日間の冒険が描かれるこの中編は、ファンタジーと怪異譚の境界をうま…

誉田哲也「ストロベリーナイト」

とってもおもしろいのだが、チープな印象が勝ってしまって良い評価とならない。猟奇殺人を扱っており新手のサイコサスペンスかと思ったが、それも早々と撃沈。事件の黒幕の意外な正体もはやくから気づいちゃったりして、サプライズに欠けた。なにより登場人…

佐藤亜紀「天使」

一読して、ひれ伏した。こういう書き方もあるんだと素直に感心した。馬鹿の一つ覚えのように連呼してしまうが、恥を承知でまた皆川博子の名を出そう。ぼくが思うに、この佐藤亜紀こそ皆川博子の最右翼の後継者なのではないだろうか。 本書は、第一次大戦を挟…

皆川博子「ゆめこ縮緬」

もねさんから頂いた貴重な皆川コレクションの一冊である。ありがたく読ませていただいた。 本書には八編の短編が収録されている。 「文月の使者」 「影つづれ」 「桔梗闇」 「花溶け」 「玉虫抄」 「胡蝶塚」 「青火童女」 「ゆめこ縮緬」 いつものごとく、…

固ゆで卵の夜

路地裏は、意外と清潔だった。大抵こういう場所は病原菌の温床のようなジメジメして臭い場所というイ メージがあるが、ここは乾いていて臭いもなくとても快適だった。私はさっきから、垂れおちてくる鼻水 を懸命に手の甲でこすりとっているところだ。なぜだ…

山本昌代「善知鳥」

これはまた非常に好みの合う短編集だった。ちょっと皆川テイストの入ってるところも重要なポイントでまだまだこういう人もいるんだなとうれしくなってしまった。 本書の収録作は以下のとおり。 「逆髪」 「人彘(じんてい)」 「おばけ伊勢屋」 「善知鳥(う…

野村美月「文学少女と神に臨む作家(上下)」

ようやく読み終わった。これだけ一つのシリーズを根気よく読み続けたことって、あまりないから自分を褒めてやりたい。だって、このシリーズ全部で8巻もあるのだ。順次追っていかなかきゃ、長いぜまったく。大団円にふさわしく、今回は大盤振る舞いの上下二…

わたしの能力

きっと昨日は機嫌が悪かったんだと思い、もう一度あらためて出直してきたら、その場所はクレーターになっていた。ぼくが嫌な思いをしたから、こういう結果をまねいてしまったのだろうか? クレーターの底は、はるか彼方であって目視では確認できないくらい深…

小池昌代「ことば汁」

前回の感想でこの人の作品が好きかどうかわからないと書いたが、本書を読んで大ファンになったことをここに告白しよう。本書には6編の短編が収録されている。タイトルは以下のとおり。「女房」 「つの」「すずめ」「花火」「野うさぎ」「りぼん」 巻頭の「…

L・V・S = マゾッホ「聖母」

マゾッホといえば、被虐的な性愛を意味するマゾヒズムの語源となった作家として認識しているだけで、それ以上でも以下でもない評価しかなかったのだが、本書を読んでその認識を少しあらためた。 本書の舞台はロシアの片田舎。農夫のサバディルが森を逍遥して…

誉田龍一「消えずの行灯 本所七不思議捕物帖」

一昨年刊行された新人さんの時代ミステリ短編集である。かの有名な本所七不思議を題材にして七つの短編が収録されている。本所七不思議といえば宮部みゆきの「本所深川ふしぎ草紙」が有名で、ぼくも以前読んだこともあり、いまさら七不思議といわれても目新…

小鷹信光 編著「〈新パパイラスの舟〉と21の短篇」

これはかなりの労作である。一冊の本に纏められると読む方としては非常に手軽なのだが、これだけのデータを集めるというのはちょっとやそっとでは出来ない芸当だと感心してしまった。 小鷹信光といえば、ぼく的にはハードボイルドの大家っていうイメージがあ…