読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2008-07-01から1ヶ月間の記事一覧

皆川博子「聖女の島」

なんとも不思議な感触の幻想ミステリだ。本書を読む者は、始終言い知れない『歪み』を感じることになる。まさしく本書は『信用できない語り手』の物語なのだ。なのに一見したところでは、その不安の正体が見定められないようになっている。そしてラスト、凄…

今野敏「果断 隠蔽捜査2」

というわけで、すぐ読んじゃったんだなこれが。いままでのぼくなら、こういう読み方はしなかったのだが、ここんとこ皆川熱にとりつかれて、なんだかぼくの性向も変化してきたらしい。とてもフットワークが軽くなってきたのである。 で、ウキウキと本書に取り…

諸田玲子「犬吉」

綱吉の発布した生類憐れみの令は、彼が麻疹に罹って死ぬまでの24年間にわたり庶民を苦しめ続けた。 あまりにも尋常でないこの悪法は、綱吉が戌年ゆえにとりわけ犬を大切にしなければいけないということで現在の中野区に総面積27万坪に及ばんとする御囲を…

「皆川熱にとりつかれて買っちゃいました!」

さて、ここんとこ好き好き大好き超愛してる状態の皆川博子様なのだが、もう、どうしたらいいのってく らいの熱狂ぶりに自分でも驚いている。この歳になって、まるでアイドルを追っかける直情なファンその ものの上せぶりが我ながらおかしい。でも、この感情…

皆川博子「ジャムの真昼」

一人の作家を集中していちどきに読むなんてこと、ここ二十年くらいなかったことである。ほんと、ホームズシリーズを軒並み読んだ時以来のことなのだ。この歳になって、こんなに夢中になれる作家が出現するなんて思いもしなかった。皆川博子とは、それぐらい…

引き出しを開けると虫がいた。それも見たことのない虫だった。ぽってり膨らんだ茶色い腹は、フイゴの ように激しく伸縮し、透明な羽の下にみえる胸部は茶色い毛に覆われ、禍々しい雰囲気を強調している。 表情のない硬質な目は黒く鈍く光っており、まるでこ…

皆川博子「伯林蠟人形館」

本書は非常に高度な小説である。何が高度かといえば、読者の頭を使わせるという意味ですこぶる高度な本なのである。では、それがいったいどういうことなのかということを説明したいと思う。 本書で描かれる舞台は第一次大戦からヒットラー台頭までの混乱をき…

今野敏「隠蔽捜査」

この人、最近めきめきと頭角あらわしてきてませんか。というわけで遅れてならじとあわててこの評判のいい警察小説を読んでみたというわけ。といっても文庫落ちだからすでに遅れをとってるんだけどね。 で、感想なのだがこれが評判に違わず良かった。読み始め…

金城一紀「映画篇」

これタイトルからは内容がわからないので、ほんと読んでみるまで雲をつかむような感じだったのだが、 二話目の「ドラゴン怒りの鉄拳」に突入したあたりから仕組みが見えてきて、興が乗りだした。 扉絵に手書き風のヘップバーンが描かれている『ローマの休日…

古本購入記 2008年6月度

梅の季節なので、またもや梅ジュース作っちゃいました。これ飲んでると不思議と灼熱の夏でもバテずに 乗り越えられるんだよね。自然の力って凄いなぁ。 というわけで、先月分の古本購入記なのだが、またまた性懲りもなく大量に買ってしまいました。 数えてみ…

桜奇変

四月になれば今日子は 床に手を伏す蝶のように 急かれて、焦がれて、試されて 同じ境遇には落ち着かず ああ、なにもかもが煩わしい 目をやる親は、真紅の今宵 月が溶け出し、涙やむ 神社の裏に積もる死は はだけた着物の裾模様 落ち着かず、落ち着かず おま…