読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2006-01-01から1年間の記事一覧

鈴木輝一郎「三人吉三 明日も同じたぁつまるめぇ」

古本屋で背表紙を見かけて、おっ!『三人吉三』じゃないかと驚いた。表紙を見てみると藤田新策ではないか。この作者はまったく知らなかったのだが、俄然興味が湧いてきた。それによくよく見ると、この表紙なんだかおかしい。娘さんが空飛びながら火吹いてる…

小林恭二「悪への招待状 幕末・黙阿弥歌舞伎の愉しみ」

歌舞伎を通して江戸の風俗を味わう好読物である。 それも爛熟期の江戸ではなく、大きく変わろうとしている頽廃の香り高まる幕末の江戸である。 世は風雲急をつげ、世相は乱れ、庶民は日夜遊興に耽ることばかりを考えている。 今の日本では考えられない世界だ…

菊地秀行「幽剣抄」

菊地秀行の新刊はもはや読書の対象外になって久しい。前にも書いたが、昔は彼の作品を好んで読んでいた時期もあった。「吸血鬼ハンターD」や「エイリアンシリーズ」は大好きだったし、あまた量産されたバイオレンス小説も読んできた。でも、いまでは菊地秀…

スーザン・ヴリーランド「ヒヤシンスブルーの少女」

『時代もの大好き』企画もいよいよ大詰めである。今週末で終了だそうな。今回の企画では『時代もの』 といってもその範疇が結構幅をもたせてあるので、こうして海外作品も参加させて頂くことができた。 うれしい限りである。というわけで今回は、フェルメー…

岩井三四ニ「難儀でござる」

この人の本は今回初めて読んだのだが、至極読みやすくて好感をもった。 本書には八編の短編がおさめられている。扱われている時代は戦国時代だ。この混乱を極めた時代にあ って難問に直面する人々が描かれる。 巻頭の「二千人返せ」は緊張する駿河と甲斐の攻…

子盗り鬼

子盗り鬼がやってくる。 どうやら昼間、娘が連れて帰ってきたらしい。というのも昼間はこの鬼、とても愛らしい子供の姿をしてるから、大抵の人はまさかこの子供が子盗り鬼だなんて思わないらしい。だから、ウチの娘もだまされた。 子盗り鬼は吸血鬼と同じで…

江波戸哲夫「部長漂流」

この人は政治、経済の分野を舞台に健筆を揮う作家らしいが、生憎一冊も読んだことはない。 なのにどうして本書を手に取ったのかというと、タイトルが秀逸だと思ったのと表紙が藤田新策の絵だ ったからにすぎない。 業界でも大手の太陽不動産の部長森田はバリ…

〈ナイトヴィジョン〉シリーズ

いきなり話がシフトしてしまうのだが、ほんとうに早川文庫のモダンホラーセレクションがなくなってさびしい限りである。あのシリーズの全盛期だった80年代後半~90年代は、毎月本屋に行って新刊の中から背表紙の赤いシンボルマークを発見するのが楽しみ…

藤沢周平「蝉しぐれ」

藤沢作品の中でも、もっとも多くの読者に愛されているのが本書ではないだろうか。 ドラマ化もされたし映画化もされた。ぼくはどちらも観てないが、観た人も多いのではないだろうか。 この本から受ける印象は人さまざまなのかもしれない。主人公、文四郎に等…

季節はめぐり・・・

かなしい春 緑の木 ふたりしずか 流れさる くやしい夏 青い水 ふたりいつも 泣き叫ぶ うつろう秋 赤い土 ふたりいつか 忘れさる あたたかい冬 白い肌 ふたり戻り 永久に幸せを・・・

ダン・ローズ「コンスエラ 7つの愛の狂気」

世の犬好きすべてを敵にまわしそうな「ティモレオン」の衝撃的な結末が印象深いダン・ローズの短編集である。本書には七つの話がおさめられている。愛の狂気と副題にあるから、それなりのつもりで読んだが、こりゃだいぶヒネクレている。すべての話が主人公…

リデムプション

あなたはゆっくり歩いている 静かな日曜の午後 木漏れ日がやさしい森の中 思わず笑みがもれてしまう すべてがうまくいってるという確信 こういう昂揚感はきらいじゃない やがてあなたは こんもり盛り上がった拓けた場所にたどりつく 森の中にぽっかり空いた…

山口雅也「ステーションの奥の奥」

おもしろかった。でも、これがあの山口雅也の作品だと思うと物足りなく感じる。 小学6年の陽太が経験するひと夏の冒険を描いているのだが、話の展開上でぼくの思ってる方向から逸脱していったのが、その要因かと思われる。 まさかねえ、そんなことになると…

世界の出口

『世界の出口』が見つかったとの報道に全世界の人々が興味津々である。聞くところによると、『世界の 出口』はイエメンにあるという。 連日テレビでは、『世界の出口』情報が報道される。 『世界の出口』は青い色の大きな穴で、近づくと吸い込まれるのだそう…

ピーター・ディキンスン「キングとジョーカー」

この本も昨年ブログ開設間もない頃一回紹介しているのだが、いま一度紹介したいと思う。なぜならば、今度めでたく本書が扶桑社ミステリー文庫から復刊されることになったからである。 最近、ディキンスンの作品がちょこちょこ刊行されていたので、このまま人…

喜国雅彦「本棚探偵の冒険」

本好き、それも古本に目が無い人にとって本書の登場はまさしく垂涎ものの喜びだったに違いない。 少なくとも、ぼくはそうだった。まったく、ほんとうに、鼻息荒く興奮した。 喜国雅彦の存在は本書を読む以前からよく知っていた。しかし、このルーズソックス…

デボラ・モガー「チューリップ熱」

みなさん、ご存知だろうか? 十七世紀初頭のオランダで、愛好家や栽培業者のあいだで取引されていたチューリップが異常な社会現象 を引き起こし市民をも巻き込んで、投機の対象となった事実を。珍しい球根一個が邸宅一件分にも相当す ることがあったなんて信…

スザンナ

あらくれ男に連れ去られたわたし 悲劇のヒロインみたいで そんな自分がちょっと誇らしい 誰もがみんな わたしを狙ってたけど 結局最後はこういう結末なのね 素敵な花に囲まれて 毎日、毎日、毎日、まいにち 愛をささやかれて やっぱりわたしは幸せなのかな …

大岡昇平「事件」

『ありふれた』といってはなんだが、どこにでもあるような単純な殺人事件が起きる。神奈川県の田舎町で十九歳の少年が、結婚に反対する恋人の姉を刺殺したのだ。ほどなくその少年は逮捕され、事件をめぐる裁判が開始される。検察側と弁護側の主張は当然のご…

ジョナサン・ケラーマン「大きな枝が折れる時」

小児専門精神科医アレックス・デラウェアを主人公とする傑作ハードボイルドである。これは読んだとき鮮烈な印象を受けた。 サンセットブルヴァ-ドの高級アパートメントで精神科医と女が惨殺される。唯一の目撃者である七歳の少女は、怯えて証言できる状態に…

舞城王太郎「SPEEDBOY!」

まずね、久しぶりの舞城本だってことで舞い上がってしまってたみたいで、なかなかこの本をみつけら れなかったのが我ながらおかしい。もう、発売日の一日から鼻息荒く本屋に飛んでいって探してたのだ が、まったく見あたらなかったのである。まあ、これが地…

とみなが貴和「EDGE~エッジ~」

いま話題になっている本書をとにかく読んでみた。本書は講談社Ⅹ文庫ホワイトハートで刊行されてい た。第一巻である本書が刊行されたのは1999年。それが今年第五巻をもって無事完結した。 発表された当時からじわじわと人気が出て、ホワイトハートにも関…

これから刊行される気になる本

個人的に気になる本が秋から年末にかけてたくさん刊行される。 まずはほんと久しぶりなのだが舞城王太郎の新刊が刊行された。うれしいかぎりである。読みもしないう ちから喜んでいるのもなんだが、舞城君に関しては『恋は盲目』状態になっているので仕方が…

未知のゲート

カーキ色の作業服を着た男は言った。 「油断しちゃいけません。気をゆるめると命を失うことにもなりかねません」 物騒なことを言うなぁと思ったが、黙って頷いておいた。 「ただでさえ危険な作業ですから、慎重にすすめてください。あっ、それと」 そう言っ…

平山夢明「異常快楽殺人」

以前、平山夢明のノンフィクションは読む気がしないと書いていたが、本書だけは別である。 この本をひらけば、およそこの世のこととはおもえない地獄絵図が現出する。 あとがきでも述べられてるが、本書を編集したスタッフの一人は、作業を一気に行ったため…

チャールズ・ウィルフォード「マイアミ・ブルース」、「マイアミ・ポリス」

ホウク・モウズリー刑事のシリーズは、第一弾が創元推理文庫から、第二弾以降は扶桑社ミステリーから刊行されている。ちょっと変わったパターンだ。 第一弾の「マイアミ・ブルース」が刊行されたのが1987年。第二弾の「マイアミ・ポリス」が1988年。…

谷崎潤一郎「武州公秘話・聞書抄

ここで語られるのは、一人の男の狂おしい願望だ。 武州公こと武蔵守輝勝は、幼少の頃人質としてとある城で育てられることになる。彼はそこで首実検の ため敵の首を洗い清め化粧を施す女たちに出会う。あまりにも凄惨で妖艶な世界に彼は陶然となる。 なかでも…

A・A・ミルン「赤い館の秘密」

とりたてて素晴らしいトリックがあるわけでもなく、アッ!と驚くどんでん返しがあるわけでもないのに一読すればわかるとおり、本書はいつまでも心に残る名作となり得ている。 それは、全編を覆うユーモアのおかげであり、探偵役のアントニー・ギリンガムの魅…

中島望「クラムボン殺し」

ミステリとしてはダメダメなのだが、話としてはおもしろかった。 眼球を刳り貫く連続殺人鬼と標的にされた女教師。つかみはOKだ。非常にソソられる。やがて、その女教師の学校で猟奇殺人事件が起こる。巷を賑わす連続殺人と学校で起こる見立て殺人。 とて…

太陽を月に染めて

いわれない中傷や 孤独との闘いに疲れたとき きみの眼には、雨が降る 時に雨は激しく 神の御心のごとく無慈悲に降り続くが 永遠にではない 太陽を月に染めるが如く それは 不思議にも静謐な感動をもって きみの心をあたたかくする けだし、人の世は住みにくく…