読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2006-09-01から1ヶ月間の記事一覧

ジェイムズ・エルロイ「ブラック・ダリア」

一番最初に読んだエルロイの本が本書だった。 ミステリ好きの人なら説明するまでもないだろうが、「ブラック・ダリア事件」は実際にあった事件である。1947年1月15日に、ロサンジェルスの空地で女性の死体が発見された。その死体には激しい損壊が加え…

ロバート・R・マキャモン「魔女は夜ささやく」

17世紀末のアメリカ南部。とある村で捕まえられた魔女といわれる女。 魔女裁判を執り行うべく、この地にやってきた判事と若き書記のマシュー。しかし、マシューにはこの獄 中にいる女が魔女だとは、どうしても信じられなかった。 やがて、彼女を信じ愛しは…

芦辺拓「グラン・ギニョール城」

古き良き時代のミステリが雷鳴とともに山頂の城館によみがえった。 いわくありげな登場人物。からくり人形、密室殺人、黄金時代そのままの道具立てが遊び心満点で、ついついニンマリしてしまう。 だが、やがて本の世界と現実がリンクするという興醒めな演出…

ベヴァリー・スワーリング「ニューヨーク」

アメリカ建国以前の1661年開港まもないニューアムステルダムに、理髪師にして天才外科医の兄と、調薬 師の妹が降り立つところから物語は始まる。そこは、のちにニューヨークとして世界でも有数の大都市と なる場所。そんな黎明期のアメリカの混乱した時代を…

アンリ・トロワイヤ「クレモニエール事件」

物語の切り口が新鮮だ。冤罪裁判の判決が出てから動きはじめる物語なんて、いわばクライマックスが済んでしまってるみたいなものだ。いったい、この後どう話が続いていくのだろうと興味津々だった。これは皮肉な話だ。良い結果がすべてを悪い方向に導いてい…

平山夢明「独白するユニバーサル横メルカトル」

天才か?やっぱりこいつは天才なのか? 読みながら、何度もそう思った。彼の「メルキオールの惨劇」を読んだとき、その形容しがたい世界観 にメロメロになってしまったのだが、本書におさめられている八篇の短編はそれぞれが独自の世界を築 いていて、もうそ…

上位五作発表!山田風太郎、忍法帖ベスト10

それでは、風太郎忍法帖上位五作品の発表いってみましょうか。再投稿ということで、ほんとうは画像も載せたかったのですが、いまではこれらの本は実家に置いてあるんで写真撮る時間がありませんでした^^。■第五位■ 「銀河忍法帖」前回紹介した「忍法封印い…

三羽省吾「太陽がイッパイいっぱい」

大学生のイズミは、付き合っていた彼女の「海外旅行に行きたい!」という一言を機に、日雇いのバイ トをするようになる。そこで「マルショウ解体」の親方に引き抜かれ、いまは大学にも行かず毎日過酷 な労働に汗を流している。きっかけを作った彼女とも別れ…

山田風太郎、忍法帖ベスト10!

大好きな山田風太郎のことをもっと語りたいので、独断と偏見でぼくの忍法帖ベスト10を選出してみました。長くなりそうなんで、二回に分けたいと思います。今回は、10位から6位を発表!では、早速いってみましょうか。■第十位■ 「忍法八犬伝」言わずとし…

島田荘司「ハリウッド・サーティフィケイト」

ブログの仲間内(特に女性陣)では、かなり評判のよろしくないレオナが主人公のハードボイルド・ミステリーである。 おもしろかった。変な魅力があった。レオナが登場するのは「アトポス」以来ではないだろうか。 そして相変わらずの破天荒ぶりである。実際…

宇月原清明「聚楽 太閤の錬金窟」

本書は「信長 ― あるいは戴冠せるアンドロギュヌス」で、第十一回日本ファンタジー大賞を受賞した著 者の受賞第一作である。 デビュー作を飛び越えて本作を先に読んだのだが、いやあ驚いた。大傑作ではないか。 本書で描かれるのは、信長、秀吉、家康の三人…

J・スキップ&スペクター編「死霊たちの宴」

かの米国で生きる屍といえば、ジョージ・A・ロメロ監督の「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」の ことである。 上巻では、そのロメロにリスペクトした感のある作品が揃っていた。そのほとんどが、映画そのままに 生きる者と生きる屍との死闘を描いているの…

日向まさみち「本格推理委員会」

「鴨川ホルモー」に出会って『ボイルドエッグズ新人賞』なんてものがあることを知った。本書はその 新人賞の第一回受賞作である。 読み始めではアニメ調のセリフ回し、アニメ調のキャラ設定などが鼻について、あまり好みじゃないな と思った。事件自体も校舎…

「時代もの、大好き」企画に参加いたします。

月のホネ/ブックリポートの月野さんからお誘いを 受けまして、この度「時代もの、大好き」という企画に参加することになりました。 時代ものといえば、いまの本好きとしてのぼくがあるのも中三の時、あの山田風太郎大先生の「伊賀忍法 帖」をスケベ心出して…

キリル・ボンフィリオリ「深き森は悪魔のにおい」

十五年探し続けて読んだ本である。といえば大層に聞こえるが、要はネットをするようになったら案外簡単に見つかったというわけだ。 この本の存在は、当時指南書として大変重宝した角川文庫の「活字中毒養成ギプス ジャンル別文庫本ベスト500」という本で知っ…

池永陽「コンビニ・ララバイ」

市井の人々の日常が描かれているだけなのに、これがめっぽうおもしろい。そこには、人と人との触れ 合いがあり、ささやかだが心に残るドラマがある。 タイトルからもわかるとおり舞台になるのは本通りから外れた住宅街にあるコンビニエンス・ストア。 様々な…

ディック、クーンツ他/中村融編「影が行く」

本書はSFホラー短編を日本独自で編纂したアンソロジー。なかなかの傑作揃いである。 収録作は以下の通り。 ◆ 消えた少女(リチャード・マシスン) ◇ 悪夢団(ディーン・R.クーンツ) ◆ 群体(シオドア・L.トーマス) ◇ 歴戦の勇士(フリッツ・ライバー…

佐藤友哉「子供たち怒る怒る怒る」

久しぶりに読んだ佐藤友哉だったが、これが案外よかった。相変わらず描かれる事柄は尋常じゃない。 これは舞城君にも通じるテイストなのだが、佐藤君もアンモラルさにかけては甲乙つけがたい。 酸鼻で醜悪な場面が横溢し、おびただしい血が流れる。もしくは…

アントニイ・バークリー「レイトン・コートの謎」

ロジャー・シェリンガムという特異な探偵は、本書と「第二の銃声」の二冊でお知り合いになったのだが、もうそれだけでこの探偵の魅力にどっぷりハマってしまった。彼は風貌こそ違えども、そのスタンスはキートンかチャップリンかと思うほどの喜劇役者である…

筒井康隆・編「異形の白昼」

恐怖小説というのが好きなのである。目がないと言ってもいい。恐怖、ホラー、怪談、呼び方はどうで あれぼくはこの手の話が大好きだ。 だから、よくアンソロジーを読む。角川ホラー文庫のアンソロジーもよく読んだが、あまりいい作品に はめぐりあえなかった…

ウィルキー・コリンズ「月長石」

物語の構造としては、事件が終息して後日に各関係者が、当事者視点でそれぞれの体験を証言するという体裁をとっている。それは、月長石盗難の舞台となったヴェリンダー家に仕える老齢の執事であったり、親戚の狂信的なキリスト教信者の女性であったり、顧問…

東野圭吾「幻夜」

本書は、あの大傑作「白夜行」の続編である。ここでちょっと「白夜行」について語ってみたいのだが、あれを読んだ時は正直ブッ飛んだ。ぼくの年代がまさしくあの作品で描かれた時代と同年代だったので、描かれる時代の趨勢がぼくの経験とぴったりシンクロし…

クリス・クラッチャー「ホエール・トーク」

ラストで不覚にも泣いてしまった。思わず胸が熱くなって涙がこぼれてしまった。 本書はYAながら、YAの枠にとらわれない強い小説本来の力をもっている。う~ん、クラッチャーさん巧みだ。アメリカが直面している現実の厳しさが正面きって描かれ、答えの出…

菊地秀行「幽剣抄」

菊地秀行の新刊はもはや読書の対象外になって久しい。前にも書いたが、昔は彼の作品を好んで読んでいた時期もあった。「吸血鬼ハンターD」や「エイリアンシリーズ」は大好きだったし、あまた量産されたバイオレンス小説も読んできた。でも、いまでは菊地秀…

最後の願い

あの頭上に輝いている 赤い星は 火星だろうか ぼくは犬と一緒に 暗い夜道を散歩している 突然に ぼくは死を予感する 犬は無邪気に尾をふっている 今年の初雪は、たぶん十二月二十三日に降るだろうが おまえもぼくも それを見ることはないだろう 眼下を流れる…

ロバート・ニュートン・ぺック「豚の死なない日」

衝撃的な本である。 ひと昔前のアメリカ、ヴァ-モントの田舎。そこで慎ましく暮らすシェーカー教徒の農夫家族。 彼らの禁欲的な生活が淡々と描かれる。作者自身であるロバート少年の目を通して。電気や電話もなく移動手段といえば馬車、日々の食物は畑や家…

上遠野浩平「しずるさんと偏屈な死者たち」

上遠野浩平といえば、「ブギ-ポップは笑わない」を以前に読んだ。でも、あまりピンとこなかったの でそれまでとなっていたのだが、今回ライトノベル漁りをしている最中に本書を見つけてもう一度トラ イしてみようと思い立った。この人が「殺竜事件」などの…

ジョン・グローガン「マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと」

普段はこういう本は読まないのだが、読みはじめるとついつい引きこまれてしまう。 本書は早川書房が10月6日に刊行する本のモニターアンケートに応募して、送ってもらった発売前の 簡易製本なのである。だから読んでアンケートを返送しなければならない。…

北上次郎「エンターテインメント作家ファイル108国内編」

北上次郎の書評が好きである。なんといえばいいか、彼の書評は気持ちを鼓舞するのだ。 たとえばそれがまったく知らない作家のものだったとしても北上書評にかかってしまえば、はやく読ま なきゃいけないと焦燥感にかられてしまうこと請け合いなのだ。 だから…

アンリ・トロワイヤ「サトラップの息子」

トロワイヤといえば歴史物というイメージしかなったが、こんなに素晴らしい小説も書いていたのだ。本書以前に読んだトロワイヤの本といえば「イヴァン雷帝」だけだったので、ほんとに本書の完成度には目を瞠った。本好きには、ググッとくる内容で、本書の主…