読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2006-08-01から1ヶ月間の記事一覧

倉知淳「壺中の天国」

家庭諧謔探偵小説。なんじゃそりゃ?ピンとこないなぁ。ユーモア家族小説のミステリ版ってことか? それにしては、ずいぶんもってまわしたネーミングだ。そこには作者のたくらみが隠されているはず。 ううーん、いったいどういう話なんだろう? それに加えて…

ギルバート ・アデア「ドリーマーズ」

まず、驚いたのが『五月革命』である。恥ずかしながら、1968年にフランスでこんなに混乱を極めた革命があったなんてまったく知らなかった。学校で習ったっけ?とにかくその事実を知っただけでもめっけもん。で、内容的には退廃とエロスに彩られた幕間劇…

日日日「ちーちゃんは、悠久の向こう」

なかなかに悲惨な話だった。直接的な描写がないだけで、語られていることは残酷なことこの上ない。 あまり先入観をもってなかったので、結構インパクトあった。怪談好きの女の子というのは目新しくな いが、そこから波及していく物語の展開がおもしろかった…

メアリー・ローチ「死体はみんな生きている」

死体となって後、人類のために貢献している人たちがいる。 解剖用の献体や臓器移植などはあたりまえに知っていたが、世の中にこれだけ死体を使った仕事がある のかと驚いた。 のっけから死体、死体と少々グロいと思われたかもしれないが、本書から受ける印象…

今野敏「蓬莱」

今野敏はいまひとつの作家ではないか?作品数は多いがこれといった代表作もなく、ブレークしたこともない。かくいうぼくも彼の作品は本作しか読んだことがない。今野敏はこの作品でブレークするはずだったのだ。しかし、そこまでにはいたらなかった。この作…

赤い月の夜に

大きな月が不気味な赤い色をしている 丘にのぼって月を両手でつかもうとしたら あたり一面に星が降ってきた 光り輝く星たちは てんでばらばらに飛び散って 跳ねて、飛んで、消えてしまった 遠くから聞こえる車のクラクションに ぼくの思考がさえぎられる 君…

スティーヴン キング&ピーター ストラウブ 「タリスマン」

二人の巨匠による初の共著として刊行された本書は、実のところそれぞれのファンには不評だったようである。最後まで読みとおすことができなかったとか、おもしろくないとか散々いわれているようだがそんな本書、ぼくは結構好きだったりする。 実際、本書は長…

柴田よしき「RIKO-女神の永遠-」

柴田よしきの作品はいままで読んだことがない。特に理由はないのだが、なんとなくそうなってしまっ た。ぼくはいまだに柴田よしきと及南アサを混同してしまうところがあって、これではいかんと思い読 んでみた。 本書は柴田よしきのデビュー作であり、第十五…

ジョン・マリー「熱帯産の蝶に関する二、三の覚え書き」

確かに深い余韻が残る短編集だった。他の短編の名手と比較するってこと自体、意味のないことかもしれないが、書評でも引き合いに出されてたので、一応吟味しながら読んでみた。国境なき医師団で働いていたというキャリアからして、我々とは違う現実に生きて…

横山秀夫「出口のない海」

あの時代の日本。世界に楯突いてどうにも引き下がれなくなってしまった日本。 愛国の名のもとに神を信じ無敵を信じ戦場に散っていった多くの命。 戦争が人類最大の愚劣きわまりない行為だとしたら、そこで亡くなっていった尊い命はいったいなんだ ったのか。…

ミッチ・カリン「タイドランド」

本書はなんとも暗くて重い内容だ。 なのに本書の主人公は11歳の少女なのである。だから、彼女の眼を通して語られる世界は空想に侵蝕されて、暗くて厳しい現実がボカされてしまう。両親は薬中で、若い母親はそれが元で死んでしまう。 父と娘は母を置き去り…

福澤徹三「廃屋の幽霊」

本書は、純粋な怪異譚ばかりを集めた短編集である。全部で7編収録されている。 どうもこの人の書く怪談は、あの世とこの世を幻想で味付けしてしまう傾向があるようだ。 怪異をストレートに描かず、そこに境界をボカした曖昧な領域を設けて読者を煙に巻く。…

シオドア・スタージョン「輝く断片」

河出の奇想コレクションで唯一2冊出てるのがスタージョンなのである。このシリーズ現在9冊刊行されていて、ぼくが読んだのはその内5冊。中にはどこがおもしろいのかよくわからなかった作品(アヴラム・デイヴィッドスン「どんがらがん」これはあの殊能将…

黒田研二「嘘つきパズル 究極の名探偵★登場」

まず冴さん、この本の存在を教えていただいて感謝しております。それと、ゆきあや先輩、先に読んじ ゃってすいません^^。 ほんと冴さんに教えてもらわなかったらこんなマイナーな文庫、一生見つけることはなかったと思う。 それにこの表紙。いくら魔夜峰央…

滝本竜彦「ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ」

高校時代を振り返ると、自分はなんと愚かで世間知らずだったのかと驚いてしまう。それが特権なのだとは思うが、やはりあの頃というのは超がつくバカの時代だったと思うのである。 それに加えて、いかに自分が宙ぶらりんだったのかという事も思い知らされる。…

夏の午後に

通り雨が細く音をひそめて 山の木々からため息がもれた 少し離れたところにいたぼくは ゆっくり煙草を楽しんでいた 立ち上る煙を目で追っていると 視線の先に青空が広がった まるでカーテンが開くみたいに 青空が広がった そんなことに心がさわぐ なんでもな…

ドン・ウィンズロウ「砂漠で溺れるわけにはいかない」

二ール・ケアリーシリーズの栄えある第一巻「ストリート・キッズ」が刊行されてから13年目にしてやっと最終巻が刊行された。本国では1996年に刊行されているのだが、諸事情により翻訳は遅れに遅れ今月刊行されたというわけだ。この辺の事情は巻末の〈…

東野圭吾「赤い指」

加賀刑事シリーズがあるということを知らずに本書を読んだ。なるほど、この刑事只者ではない。 明晰な思考は数ある名探偵の中でもダントツの冴えをみせ、その言動には必ず意味がある。 わずかな印象から、解決の糸口を見つけ出す手腕には舌を巻いてしまった…

江戸川乱歩『探偵小説の「謎」』

乱歩はエッセイや評論も数冊残しており、これがなかなかおもしろい。彼は創作では破綻することが多 かったが、この分野では思いのままに筆を運ばせているので、読んでいるこちらの方も活き活きしてく る。エッセイとしては「悪人志願」、「幻影の城主」、「…

古本購入

いったい舞城君はどうしちゃったんだろう?と思っていたら、つい先日の新聞に『新潮』の広告が載っ ていて、ディスコ探偵の第三部が発表されていた。 喜ばしい限りである。でも、このディスコ探偵なるもの、いったいどういう話なのか皆目見当つかない のがビ…

エイミー・ブルーム「銀の水」

非常におもしろく読んだ。すべての短編において、扱っている題材は『アメリカの悲劇』である。しかし、暗くもないし不安にもならない。ブルームの筆勢は、過剰にならず適度なスピードで誘導してくれるから、こちらとしてはショッキングな展開でも自然に受け…

内田春菊・選「ブキミな人びと」

世の中にブキミさんは多い。人の集まる場所に行けばかなりの確率でブキミさんに会うことができるといっても過言ではない。もしかしてこれはぼくの偏見かもしれないが、実際ぼくはブキミさんに遭遇することが多い。電車に乗っても、街中でも、マクドナルドで…

桐野夏生「リアルワールド」

桐野作品は「OUT」しか読んでいない。あの作品は確かにおもしろかったが、どうしたものかこの作 家を追いかけようとは思わなかった。だから、それからは桐野作品を読んでない。 この作品は、ひと夏のほんの数日の出来事を描いている。主要人物は五人。女…

万城目学「鴨川ホルモー」

ホルモーとは何ぞや?ホルモンではなく、ホルモー? まったくたいしたセンスではないか。タイトルでがっちり心をつかまれてしまう。 そしてそして、驚くべきはその内容だ。 本書は、第4回ボイルドエッグズ新人賞を受賞した著者のデビュー作である。こんな賞…

フラハティ・メア

冬の吹く夜に フラハティ・メアは、やってきた ツバの大きな帽子に 首から下げた幾つもの石 大きな目には白眼がなかった 悪夢の総称として跋扈する彼女は 読み取れない表情のまま かすれた声で、こう告げた 「本を読むなかれ。庭の木を切るなかれ。湯を飲む…

ピアズ・アンソニイ「カメレオンの呪文」魔法の国ザンスシリーズ

ピアズ・アンソニイのザンスシリーズに出会ったときは心底喜んだ。 ぼくが読みたかったのは、こういうファンタジーなんだと快哉を叫んだものだ。 舞台は魔法を使える者か魔法的存在のものしか住むことがゆるされない世界ザンス。だから、魔法を使えない者は…

小野不由美「悪夢の棲む家」

この人のティーンズハートの『渋谷サイキックリサーチ』シリーズは怖いともっぱらの噂だったのだが 、気づいた時には書店から消え去っていて、その後古本屋を探してもとんと見かけたことがない。だか ら一冊も読んだことがないのだが、番外編として「講談社…

ハーラン・エリスン「世界の中心で愛を叫んだけもの」

エリスンといえばなかなか型破りな性格で、バクチクのような危険なおっさんというイメージがある。 事実彼の残した逸話は数多い。あのアシモフに向かって「おまえ、なってねえなぁ」と言ったとかフランク・シナトラと大喧嘩したとか「ターミネーター裁判」を…

景山民夫「遠い海から来たCOO」

いまでこそ、恐竜が出てくる話は手垢がついた感じでありふれているのだが、本書が刊行された18年前は、とても新鮮に感じたものだった。 何がよかったといって、南国を舞台に爽やかな陽光の中で語られる物語の中にノスタルジックなせつなさが横溢していると…

アーウィン・ショー「小さな土曜日」

ショーといえば、ニューヨーク。彼はニューヨークを舞台に珠玉の都会小説を数多く残している。そんなショーが、こんな作品も書いてたんだと驚いてしまう短編集である。各作品について一言。「神、ここに在ませり、されど去りたまいぬ」少々物足りなさが残る…