読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2006-04-01から1ヶ月間の記事一覧

北野勇作「どーなつ」

短編が連作形式で十編おさめられている。 それぞれ共通した世界観の中でさまざまな物語が語られるのだが、これが各話リンクしてるようでいて微妙にズレている。かといってパラレルな話でもない。ここで語られる世界では戦争が起こっている。 しかし誰もその…

とどかぬおもい

交通事故の夜、ケンカした。 いつのまにか、ぼくは泣いていた。 血のにじんだ君のブラウス。 すまないってひとこと言えばよかった。 好きだと言ってあげたこともなかった。 オレンジ色の街燈に浮かび上がった君の横顔。 よく笑った口元に滲んだ赤。 すまない…

ミカエル・ニエミ「世界の果てのビートルズ」

いろいろな国の文学を読んできたが、スウェーデンはまだだった^^。というわけで、本国では十二人に一人が読んでいるという空前のベストセラーとなった本書読んでみました。本書は、いわゆる自伝である。スウェーデン最北の村パヤラ。フィンランドの国境に…

三浦綾子「氷 点」

人間の存在価値、原罪、罪を許す心。 周知のとおり著者の三浦綾子はプロテスタントのクリスチャンである。 ぼくはといえば、宗教心のかけらもない男である。神様なんてまったく信じていない。 でも、そんなぼくでも本書を読んでキリスト教のおしえが少しわか…

手袋があったよ

負けるときが多くなった。 なにに対しても、引き下がることが多くなった。 どうしてだろう? まえは、怖いことなんてなかったのに。 怖いなんておもったことはなかった。 なのに、いまではいつも自分の立ってるところを守ろうとしている。 うれしい、かなし…

スティーヴン・キング「クリスティーン」

ええっと、あの、赤ちゃん生まれた次の日にホラーの紹介もなんだと思うんですが、気にせずいってみましょうか^^。 これ、キングの作品の中ではあんまり人気ないんじゃないかな? 本書はキング版アメリカングラフティである。高校生を主人公とした青春群像…

「第三子無事誕生いたしました」

本日早朝、無事第三子が誕生いたしました。 というわけで、本日のレポートを記念に残しておこうと思います。 妻に陣痛の予兆がきたのが昨日の午前中。 軽い痛みが定期的に来るようになっていました。 夜、仕事から帰ってくるとやはり陣痛は強くなっていて、…

風に乗って

崖っぷちに立って、はるか遠くを見渡す 穏やかな海は、太陽を反射して きらきらと賑わしい どこまでも平和な景色 温かい風がやさしい うん、いい風だ 飛ぶのにちょうどいい ぼくは一歩前にふみ出す そのまま風に乗って海の上空へ やましさも、後悔も、ささや…

島田荘司「ネジ式ザゼツキー」

本書は、ここ何年かの中では出色の出来だと思う。 本書にはとびきり奇妙な謎が、これでもかというほど詰め込まれている。 とりわけスゴイのが、ネジ式ではずれる首の謎だ。 ネジ式?人間の首が?いったい、どゆこと? 誰もがそう思うことだろう。そして、そ…

クリストファー エヴァンズ 、ロバート ホールドストック 編「アザー・エデン ―イギリスSF傑作選」

これも今では絶版になっているんだろうな。 強力推薦します!っていう類の本ではないが、なんかさみしい。 というわけでイギリスSF傑作選である。 今回は収録作全作について簡単に紹介してみよう。■ タニス・リー「雨にうたれて」 母娘の愛憎からまるとこ…

君をわすれない

どこかから聞こえてくる姿の見えない鳥のさえずり。 ゆがんで、もうはめることのできない指輪。 擦りむいて血のにじんだ膝小僧。 忘れることのできないメロディ。 君をわすれない。 宝物のような君。 かすかに漂う焚き火の匂い。 せきをした拍子に飛んでいっ…

西澤保彦「七回死んだ男」

この人はデビュー作の「解体諸因」を読んで、こんなものかと思ってからすっかりご無沙汰だった。 折原一みたいなポジションに落ち着いてしまうのかなと思っていたのだ。 本書「七回死んだ男」は刊行当時から傑作といわれ続けていたが、どうも最初の本の印象…

海野十三「蝿男」

大富豪の屋敷に届けられる殺人予告。差出人は蝿男。厳戒態勢の中、お約束通り当主は密室状態の部屋 の中で殺されてしまう。 いったい蝿男は、どうやって予告通りに殺人を犯したのか? 迎え撃つ名探偵帆村荘六は、この謎を解くことができるのか? 昔懐かしい…

フレドリック・ブラウン「発狂した宇宙」

これは、おもしろかった。 まだSFにも超未熟な時期に読んだにもかかわらず、大変楽しんで読了したおぼえがある。本書はパラレル・ワールド(多元宇宙)物の傑作なのだ。 書かれた時代が古いから、いまの時代からみれば理論なんか子どもの屁理屈くらいにし…

「ベイルマンとの会話」

ベイルマン あなたには、ほとほと困ってるんですよ ゆっくり話もできやしない いつも一方通行だ 忠告してあげますよ その話し方はやめたほうがいい 絶対大きな失敗をしでかしますよ さあ そんなに怒らないで ほら 外を見て もうこんなに暗くなってしまって …

浅暮三文「ダブ(エ)ストン街道」

楽しめた。こういう話は大好きだ。メフィスト賞受賞作なので、ミステリの範疇での期待をして読んでしまう人もいるかもしれないが、本書は純然たるファンタジーである。それもかなり変わったファンタジーなのだ。ファンタジーの常として本書もクエストの物語…

アリステア・マクリーン「恐怖の関門」

はっきりいって冒険小説は、あまり得意な分野ではない。 シュミレーションゲームがあまり好きでないのと同じで、細かい戦局の説明や軍事戦略などに疎いものだからどうにもついていけないのだ。 そんな冒険小説を敬遠しがちなぼくでもおもしろく読んだのが本…

古処誠二「ルール」

驚いたのが、作者の年齢である。 ぼくより年下なのだ。う~ん、たいしたもんだ。若い作家が戦争についてこれだけの作品を書き上げたことにまず驚いてしまう。 終戦間近のフィリピン戦線、灼熱の中行軍を続ける日本軍。彼らの敵は灼熱でも、連合軍でも、病で…

デイヴィッド ソズノウスキ 「大吸血時代」

こういうヴァンパイア物は、いまだ出会ったことがなかった。エポックメーキングだ。本書の主人公はヴァンパイア人生にも翳りがでてきた鬱気味の中年男マーティ。そんな彼が自殺しようかと夜のドライブしてるところへ人間の女の子イスズが現れる。久しぶりの…

マーガレット・ミラー「鉄の門」

温厚な性格の夫を持ち、何不自由なく暮らしているルシール。 でも彼女は後妻であり、夫の妹であるイーディスとはいい関係を保っているが、先妻の残した二人の子供マーティンとポリーは成人した今にいたるまで一度も彼女になついたことはない。 ルシール自身…

きみのプライド

へたでもいいじゃん まがっててもいいじゃん はみだしてもいいじゃん きみがおもうとおりにやればいいんだよ そろってなくてもいいじゃん しわくちゃでもいいじゃん よごれてもいいじゃん いっしょうけんめいやることが、たいせつなんだよ めをかがやかせて …

筒井康隆「ロートレック荘事件」

本書が刊行された当時(1990年)は前人未踏のトリックなどといわれたものだ。 この映像不可能というトリックはいまではさほど目新しくもないのだろうが、当時はなかなか楽しんだ 憶えがある。 このトリックは、まったくのアンフェアである^^。だが、筒…

ジャック・フィニィ「ゲイルズバーグの春を愛す」

ファンタジーの定番である。 時間を戻すことに執念を燃やした作家ジャック・フィニィの傑作短編集が本書なのだ。 過去には郷愁がつきまとう。ジャック・フィニィがノスタルジーの作家といわれる所以だ。 この短編集に収められている短編のすべてがそういう話…

せつない

傘の下で小さくなった君は 電車の音に負けないように 大きな声で叫んでる 君の声はとどかない 君の声は いつまでたっても とどかない 電車はとぎれることなく続いてる いつまでも いつまでも

竹本健治「フォア・フォーズの素数」

十三編の短編とショート・ショートが収められている。 本書は、クローバー、ダイヤ、ハート、スペードの四つの章に区切られている。 クローバーの章では、夢の断片のようなとりとめない三作が続く。三編とも少年が主人公になっていて 夢幻的な世界が描かれる…

ロバート・ウェストール「ブラッカムの爆撃機」

本書は短編集。二編収録されています。 「チャス・マッギルの幽霊」は、第二次大戦中に一人の男の子が体験する不思議な出来事、「ブラッカムの爆撃機」は、イギリス空軍の爆撃チームが遭遇する異様な出来事を描いています。 さすがウェストールだけあって語…

山田風太郎「忍法創世記」

忍法帖で未刊行のものがあったと知ったときは驚いた。 本書が刊行されたとき、気を失うのではないかと思うくらい興奮したものだ(笑)。 本書を読了して、あらためて山田氏自身の自作への辛口の評価にヤキモキしてしまった。氏のこの評価ゆえに刊行されない…

古本購入

また古本買ってしまいました。もう、ほとんど病気です。積読本が鬼のように溜まってます。 最近はみなさんのブログに触発されて(挑発?)国内のミステリ関係にまた目がいくようになり、片っ 端から買い漁ってます^^。 では、ご紹介。 ■ 柄刀一「3000…

千の笑顔と千の夢

夜空に手が届きそうなとき 千の夢と千の笑顔が あなたを迎える 星は、虹の輝きをはなち ビリー・ジョエルの歌声が 九キロ四方に響きわたる あなたは 涙がとまらなくなり 喜びが全身を震わせる ああ、まったく 世の中ってのはおもしろい

ティム・オブライエン「カチアートを追跡して」

とにかく快哉を叫ばずにはいられない作品だ。 ファンタジーと現実が見事に融合して、素晴らしい世界を構築している。 「ガープの世界」や「ウィンターズ・テイル」等と並び賞される本書は、現代アメリカ文学を代表する一冊といえるだろう。 しかし、本書は読…