読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2006-02-01から1ヶ月間の記事一覧

日本探偵小説全集 4 夢野久作

これを読んだのは、もう二十年近く前である。 この本を読む前に角川文庫から出てた「横溝正史読本」を読んだのだが、、横溝が「ドグラ・マグラ」を 読んで、夜中に発狂して発作的に首を吊りそうになり、奥方に止められたというエピソードがあって、正 直ちょ…

ケン・フォレット「針の眼」

苦手なスパイスリラーだったが、予想外に楽しめた。 ヒットラーも一目置いているというドイツ屈指のスパイ『ディ・ナーデル』。彼が手に入れた情報は、 大戦の行方を左右するノルマンディ上陸作戦に関するものだった。 追い詰める英国の陸軍情報部。逃げる『…

H・F・セイント「透明人間の告白」

いまさらながら、透明人間でございます。 この使い古された題材をセイント氏は、いかにして甦らせたのか? これぞまさしくエンターテイメント。刊行された当時(およそ15年前です)は『十年に一度の傑作』なんていわれたものです。 話は簡単。透明人間の逃…

マリオ・バルガス=リョサ「フリアとシナリオライター」

お腹一杯になります。交互に語られる現実世界とシナリオの世界は、スマートさと猥雑さが表裏となって、現実世界がシナリオ世界に歩調をあわせるように読み進むにつれて、諧謔の度合いを増してゆく。う~ん、ウマすぎる。ほとんどノンフィクションだという叔…

山田風太郎「幻妖桐の葉落とし」

忍法帖ではない山風の時代小説としてのエッセンスが詰まった短編集である。 巻頭と末尾以外の作品はすべて現在入手出来ない作品だ。ハルキ文庫の快挙に拍手である。では、簡単に各作品について 表題作は、忍法帖の匂いかすかに漂う傑作である。秀吉の死の際…

イメージ・バトン

三頌亭日乗のもねさんからバトンをいただきました。 ↓http://blogs.yahoo.co.jp/kms130/26574264.html なるほど、いろんなバトンがあるもんだ^^。でも、いったいこのバトンなるものの始まりはどこなんでしょうか?自分で考えてバトン回してもいいんですよ…

ロバート・シェクリィ「人間の手がまだ触れない」、「宇宙市民」

シェクリイは、一時期短編の名手として名を馳せた。 読めばわかるが、実際シェクリイの短編は小気味よくユーモアを漂わせ、たんなる奇想的な作品に留まらない機智にあふれている。 彼が好んで描くのは、異星人とのファーストコンタクトだ。 今回紹介する二冊…

藤沢周平「消えた女」

ぼくが一番最初に読んだ藤沢作品が本書だった。 読み終わって、そのあまりにもあざやかなラストのシーンにとても感動したのをおぼえている。いままで読んできた本の中でも、1、2を争う名ラストシーンだと思う。 体裁も時代物ながら、そこに流れるスピリッ…

ジュンパ・ラヒリ「その名にちなんで」

やはり素晴らしいですね。 ラヒリの透徹された高みから見下ろす視線は、長編になってさらに磨きがかけられた感があります。 インド移民の困惑に満ちた異国での生活が、やがて定着し、同化していくさまはそのまま時代の趨勢と重なりあい、慣習がすたれていく…

荒俣 宏「ゑびす殺し」

この本を開いたとたんに、脳みそをとろけさせる程の強烈な匂いを感じた。異常な状況のなか、それぞれの物語はみなフリークスでありながら、きちんと正装してパーティの用意をしている。まるで夢の中の出来事のようなこれらの物語たちが、ゆがんだ魔力を発し…

クリスチアナ・ブランド「招かれざる客たちのビュッフェ」

なんとも贅沢なフルコースだ。 やはりブランドはすばらしい。16作品すべてが満足のいく作品だった。 英国ミステリの最良の部分を堪能したという感じだ。すさまじいまでの本格ひねりオチが、これでもか というくらい味わえる。 はっきりいってブランドは少…

国枝史郎「八ヶ嶽の魔神」

物語が自在に変化し、まったく先がよめない。型にはまらないというか、大正の時代にこういう話が万人に受け入れられたのが不思議なくらい今でも十分に通用する完成された物語なのだ。妖美幻想でありながらも、物語の骨組が単純なため、とてもおもしろく読了…

ダン・シモンズ「殺戮のチェスゲーム」

ダン・シモンズは、日本では熱狂的に迎えられたという感じがしない。「ハイぺリオン」が刊行されていた当時、確かにホラー作品を中心に軒並み作品が紹介されたのだが、それほど話題になっていなかったような気がするのである。「ハイぺリオン」は確かにおも…

渡辺淳一「白き手の報復」

渡辺淳一は好きな作家ではない。これは、最初に断っておこう。 しかし、この短編集はすばらしいのだ。 本書には6作品収録されている。 「白き手の報復」 「空白の実験室」 「背を見せた女」 「少女の死ぬ時」 「女の願い」 「遺書の告白」 どれをとっても、…

「古本屋にて」

久しぶりにブックオフに行ってきた。 基本的にケチなぼくは、100均本しか買わない。ついこのあいだ出た新刊本が半額になっていても買 わない。100円になるまでじっと我慢する。でも、たいがいそうなる前に売れてしまうのだが。 今回はいろいろ買った。…

ジェラルド・カーシュ「壜の中の手記」

北村薫氏の紹介で、この作家のことを知った。 サキやフィッツ=ジェイムズ・オブライエンなんかに通ずるテイストをもっていながら、尚且つ時代を 感じさせない普遍的な魅力を備えている。 簡単に各短編の寸評いってみましょうか。 ◆「豚の島の女王」 本書の…

佐藤賢一「傭兵ピエール」

十五世紀のフランスなんて、まったく想像つかない、とっつきにくい世界だと思っていたが、読み出し たらもう止められなくなってしまっていた。 本書で描かれるのは、世界史でも習った百年戦争とジャンヌ・ダルクである。 作者は、フランスの歴史を得意とする…

マルキ・ド・サド/澁澤 龍彦 訳 「ジェローム神父」

異端だ。まさしくそうだ。以前マンディアルグの「城の中のイギリス人」を読んだときもそう思った。本書は「美徳の不幸」からの抄録版だそうで、とても薄っぺらい本である。これで1800円は高いと思ったかといったらそうではない。本書には、会田誠氏のそ…

山田風太郎「厨子家の悪霊」

表題作は、名のみ知れてずっと復刊されなかった作品である。その他、初収録作品が二つもある。 当時復刊され続けた風太郎本の中でも本書は貴重な一冊だった。 では、各作品の寸評。 ◆「厨子家の悪霊」 山口雅也が好みそうな、まさにクリスチアナ・ブランドば…

マイク・レズニック「アイヴォリー」

まず、本書の主人公である象牙が実在のものだということに驚いた。 本書の冒頭には一枚の写真が載っている。 どうですか、この写真。化け物みたいな象ではないか。マンモスなんじゃないの。 その象牙がたどる6千年以上の歴史を見事に描き出し、ロマンあふれ…

島田荘司「エデンの命題」

本書には、シリーズ物でない二編がおさめられている。 表題作である「エデンの命題」は、クローンやアスペルガー症候群や旧約聖書などといったガジェット を組み込んだ意欲作で、世間一般の評価はいざ知らず、ぼくは結構おもしろく読んだ。 なによりおもしろ…

御手洗 潔 事件簿年表

1999年発行の講談社の文庫情報誌「IN☆POCKET」に御手洗 潔 関連事件の年表が載っていたのでそれをもとに、年表を作ってみました。なお、♪マークは未発表作です。昭和11年 2月 「占星術殺人事件」発生。昭和23年11月28日 御手洗潔生誕。…

小野不由美「東の海神 西の滄海」

延王の国作りの物語。 適度にユーモアを交え、それでいて物語はシリアスに進められていく。何事にも動じることなくなにも考えてないような、まるで昼行燈でいながら、実は豪胆ですばらしく頭のキレる延王尚隆と慈悲のかたまりでいながら、自由奔放で屈託のな…

トマス・ピンチョン「競売ナンバー49の叫び」

ぼくが読んだピンチョンは、本書一冊きりである。 この本を読んだのも10年以上前だ。それから現在にいたるまで1冊も彼の本を読んでない。あの「重力の虹」も書棚におさまってずっと威圧的に睨みをきかしている。 それほど本書から受けた印象は、強いもの…

竹本健治「腐蝕の惑星」

この作品は、いまでは角川ホラー文庫から「腐蝕」というタイトルで出ている。 はじめて本書が世に出てきたのは昭和61年、新潮文庫からだった。 当時はSFスリラーとして刊行されていたが、まぎれもなく本書はホラー作品である。SFの設定ながら、主人公…