読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2006-01-01から1ヶ月間の記事一覧

ジョイス・ポーター「切断」

いまでは読むこともない赤川次郎の大貫警部シリーズが結構好きだった。 その大貫警部が、本書のドーヴァー警部をお手本に書かれたということを知って、本書を読んだ。 これも二十年近くまえのことである。 その当時でさえ本書はおいそれと見つかる本ではなか…

山田風太郎「魔群の通過」

これが、実際にあったことだというのが信じられない。 目にあまるものがあった。 悲惨というか、壮絶というか、なんともやりきれない哀しい話ではないか。 江戸末期、水戸藩の中で内戦があった。尊皇攘夷を唱える過激派が筑波山にて挙兵したのだ。しかし、内…

デイヴィッド・マレル「廃墟ホテル」

都市探検者。 見捨てられた建築物や、遥か昔に建造された地下鉄のあとに潜り込み、置き去られた過去の遺物を探索するクリーパ-(忍び入る者)たち。 本書では、そんな特異で危険な冒険を犯すことに喜びを見出す人たちが体験する一晩の恐怖を描いている。 久…

舞城王太郎「世界は密室でできている。」

この才能にほんと脱帽。 いままでにないスタイルで描かれる世界は、現実離れしていて出てくる人たちもエキセントリックなの だが、どこか懐かしい感じで胸がキュンとしてしまう。 奈津川サーガにも登場したルンババ21も出てくる本書は、かなりいい感じの青…

小野不由美「風の海 迷宮の岸」

ええ話やなぁ。今回は麒麟が主人公である。 麒麟は、胎果から麒麟へと変貌する生き物。今回は、その胎果が主人公だ。 彼が麒麟として目覚めるまでが、本書の大半のあらすじである。 妖魔を折伏する術をしらず、麒麟に転変もできないこの心優しい少年泰麒が本…

ジョー・ホールドマン「終わりなき戦い」

「今夜は、音をたてずに人を殺す八つの方法を教授する」 このあまりにも有名な書き出しではじまる本書は、ベトナム戦争を下敷きにした傑作ハードSFである。 読む前から『これ絶対読むことないだろうな』って感じる本が誰でもあると思う。 ぼくも、本書がそ…

天藤 真「大誘拐」

天藤 真の作品はボチボチ集めてはいるのだが、読んだのはこれ一作きりである。 映画化もされたので、本を読んでなくても内容を知ってる人も多いと思うが、本書は読み終わって思わ ず笑みがこぼれるハッピーエンドの誘拐物である。 誘拐の標的にされるのは紀…

ピーター・ラヴゼイ「煙草屋の密室」

なぜこの本が品切れなんだろう?一作もハズレなしのとてもお買い得短編集なのに。 本書を読んで、やっぱりラヴゼイはいいと確信した。彼のセンスのよさ、ユーモアそれにヒネリのきい たストーリーなど、なにをおいても読者を楽しませようとする、その芸達者…

チャールズ・バクスター「初めの光が」

このあいだ紹介したバクスターの初長編である。 構成が秀逸で、章を追うごとに時間が逆行していくのである。このことによって、どういう効果が得られるか? 読み手は、先に結果を知らされるのである。そして、読み進めるにしたがって事の次第を理解するとい…

小野不由美「月の影 影の海」

本書を読んだのは、何年前だろう? 世評どおりの素晴らしい作品だった。 ごく平凡な女子高生の陽子が、突然異世界へと連れ去られてしまう。 中国的なその異世界は、十二の国にわかれそれぞれが麒麟に選ばれた王が治めているのである。 もとの世界では八方美…

ダニエル・ウォレス「ビッグフィッシュ」

夢のいっぱい詰まった本だ。 トールテールの伝統を受け継ぎ、まるっきりのホラ話なのにそれが奇妙にしっくりくる。死にゆく父と、それを見守る息子二人の関係は普通のそれとは違う。父はジョークとホラ話しか口にしない。それでいて誰からも愛されている。彼…

P・K・ディック「銀河の壺直し」

ディックはまだ三冊目だが(「パーマー・エルドリッチの三つの聖痕」、「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」)本書はたしかに以前読んだ二冊とは、印象を異にする。何がどうとかよくわからないが、なんか勝手が違う。 グリマングなんていう超生命体や、絶…

一新いたしました。

書庫のカテゴリを、詳細に分類してみました。 当初、これほど続くとは思ってもみなかったので、安易に分類してたのですが もっと、わかりやすくしようと思い分類してみました。 よろしくお願いします。 なお、分類方法に関しましては独断と偏見で分けたので…

「復讐奇談安積沼/桜姫全伝曙草紙」須永朝彦編訳

江戸の伝奇小説である。果たしてぼくに読むことできるんだろうかと、おっかなびっくりという感じで読み始めたが、たちまち引き込まれてしまった。 須永朝彦氏の現代語訳でこなれた文章の響きが心地よい。思わず声に出して読んでみたくなる文章だ。 本書には…

アントニイ ・バークリー「第二の銃声」

このバークリーという作家は、ぼくの中ではミッシングリンク的存在だった。 彼の代表作といえば、周知のとおりやはり「毒入りチョコレート事件」なのだが、迷探偵シェリンガムが 前面に出てて、なおかつ評判のいい本書を、記念すべき初読にえらんだ。 『甦る…

舞城王太郎「好き好き大好き超愛してる。」

この人はハズせません。もう溺愛しちゃってるんで。 本書には二つの短編(中編?)が収録されている。しかし、何だこのタイトルは? この超バカっぽいタイトルは、しかしいつものことながら舞城君の作戦なのだ。 この超ラリパッパなタイトルと内容とのコラボ…

中山可穂「猫背の王子」

なんでもいいから、情熱をもてる対象があるというのは素晴らしいことだ。主人公のミチルは、演劇バカ である。 未知の分野を詳しく描かれると、嫌気がさすか興味深く読むかに分かれるが、本書は後者だった。ミチル の情熱がストレートに伝わってきた。少し熱…

三崎亜記「となり町戦争」

読み終わって、せつなくなった。 行政が執り行う『となり町との戦争』という特殊な状況を詳細にシミュレーションして描かれる世界は お役所体制が前面に押し出された静かな戦争でもあった。 奇妙な静けさを持った戦争。人が死んでいるのに実感されない戦争。…

チャールズ・バクスター ~アメリカ短編小説の巧者~

今回は、ぼくが偏愛する作家チャールズ・バクスターを紹介したいと思います。 日本では、15年くらい前に早川から何年かおきに短編集が三冊刊行されました。 「世界のハーモニー」 「安全ネットを突き抜けて」 「見知らぬ弟」 の三冊です。ぼくは、この三冊…

ジョセフィン・ハンフリーズ「愛にあふれて」

愛すべきルシール。 彼女の強さと愛情、ものの見方、考え方、すべてが新鮮で素敵だ。 ある日の事件を境に、普段の変わりない生活が突然ドラマのように急展開して、彼女は家族を取り戻すために必死になる。 その中で描かれる数々のエピソードは、これといった…

アンソニー・ドーア「シェル・コレクター」

八つの短編それぞれが味わい深い。 特に気に入ったのが、「世話係」と「ムコンド」。どちらもアフリカが重要な舞台となっているが、それは関係ない。二つとも激しく魂をゆさぶられる話なのだ。 生きる意味や、荒ぶる気持ち、それと自然の素晴らしさが、おさ…

莫 言 「白檀の刑」

清朝末期の山東省高密県。猫腔(マオチアン)という猫のなき声を真似た節で演じる地方芝居の座長である孫丙は、鉄道を建設しようとしていたドイツ人技師に妻を陵辱され、義和団の仲間に入り膠済鉄道の敷設飯場を襲撃、捕縛され死刑を宣告される。 同時期、孫…

シオドア・スタージョン「不思議のひと触れ」

スタージョン再評価の中で出版された本書は、スタージョン初心者にもおおいにオススメできる傑作短編集です。 本書より前に刊行された「海を失った男」は、少しマニアックすぎるきらいがあり、スタージョン初心者には少し重たいんじゃないかと思ったし、ぼく…

宇月原晴明「聚楽 太閤の錬金窟」

本書は「信長 ― あるいは戴冠せるアンドロギュヌス」で、第十一回日本ファンタジー大賞を受賞した著者の受賞第一作である。 デビュー作を飛び越えて本作を先に読んだのだが、いやあ驚いた。大傑作ではないか。本書で描かれるのは、信長、秀吉、家康の三人の…

鯨統一郎「邪馬台国はどこですか?」

いまさらながらだが、紹介させていただきます^^。 なかなかどうして、スリリングな読み物である。読みやすいのが良い。 歴史の常識を根底から覆えす快感がたまらない。史実がどれほど不確定なものなのかということに目を 開かされる。 事実、本書の結論が…

カズオ・イシグロ「日の名残り」

昔日の誇りと栄光に満ちた日々。古き良き時代の英国。 執事という、英国伝統の神髄を描いて鮮やかな印象を残す。 慎み深き慇懃さ、そして矜持。 現代の我われが忘れがちなこれらの人間としての美徳を、ミスター・スティーブンスは体現してくれている。 時に…

ロバート・R・マキャモン「魔女は夜ささやく」

17世紀末のアメリカ南部。とある村で捕まえられた魔女といわれる女。 魔女裁判を執り行うべく、この地にやってきた判事と若き書記のマシュー。しかし、マシューにはこの獄中にいる女が魔女だとは、どうしても信じられなかった。やがて、彼女を信じ愛しはじ…

トマス・ブロック「超音速漂流」

航空パニック物といえば、なかなか小難しいものと勝手に思い込んでいたのだが、本書は旅客機のなんた るかをまったく知らなくても全然問題ない、超オモシロパニック小説だった。 かつて映画で観たことのある「大空港」や「エアポート77」なんかと違って、本…

スチュアート デイヴィッド「ナルダが教えてくれたこと 」

孤独を噛みしめる話だ。 繊細でピュアな心を持った主人公は、彼の信じることを大事に守ることで、望みを得ている。だが、友情と愛情を知ったことで、彼の心はゆらぎ始める。 ストイックで孤独な彼の言動を追う内に、こちらの情感が微妙にゆさぶられいること…

ピーター・ケアリー「ケリー・ギャングの真実の歴史」

途中、この奔放な筋運びがどうにもがまんできなくなったのだが、どうにか最後まで読み通した。すると、どうでしょう。忘れられない作品となった。本書の主人公であるネッド・ケリーは、いまなお多くの研究書や評伝が書かれ、本国オーストラリアでは人気のあ…